Hold On

女神ちゃん

2010年07月12日 21:55

Tom Waits 「Hold On」





高速バスの窓に 雨が打ちつける雫が 横になってちぎれて飛ばされていく


バスは満員で 窓ガラスは上のほうが少し曇っている

隣に座った男はさっきからずっと携帯でメールかなにかしているようだ

通路を挟んだ隣の女は 金髪にきつめのパーマをかけ 

黒のミニタイトからすらりとした足を少し開いて投げ出している

前のおばあさんは乗車したすぐから寝てしまっているようだ


みんな何かに疲れているようにバスの中は静かだった

バスの客すべて全員が帰路につこうとしてる

何かを今終えたような そんな空気だった


わたしは読みかけの本を取り出し しおりの挿んであるページを開く


羊飼いの少年の話 

読書好きの


車酔いするといけないので 時々外に目をやる

豪雨のせいか 車も少ないようだ


橋の上を走っている

川が濁流になって 木や草を飲み込んでいる


それを見ていたら 気分が悪くなりそうだったので


開いたばかりの本を閉じて 目を瞑る


バスの下で タイヤが跳ね上げる水の音が 伝わってくる


誰かの携帯のメール着信が鳴った



童顔の運転手はバスに埋もれるように バスの一部になってバスを走らせている


みんな疲れているようだった


誰もなにも話さない


ただバスの外側だけ 止まない雨が音もなく窓ガラスに打ちつけ

千切れては飛ばされ

打ち付けては 千切れて飛ばされ


音もないのにその音を聞いていたら  


いつしか眠ってしまっていた











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