月の恋
月に魅せられ
月に魅入られ
月と恋に落ち
月と結婚してしまった女の話をしっていますか
数ある星の中で
月に恋をしてしまった女の話を
ごくふつうの家にふつうに人として生まれ 人として育った少女は
幼い頃から星を数えて育ち
年頃になった頃は空ばかりを見上げ
月ばかりをながめ
月の本をながめ
月の唄を聴き
月ばかりを追い続けた少女は
いつしか大人の女になっていた
ある日
他の国の青年に出会った
青年は太陽のにおいがした
青年はやさしかった
青年と女は恋に落ちた
青い池のほとりで歌を歌い
鳥の鳴き声で二人は目を覚まし
裸足で野山をかけて恋をした
青年は国に帰らなくてはいけなかった
青年は国に婚約者がいたのだった
女は泣いた
太陽のような青年は去っていった
女は泣いた
痛みを抱きつづけ
女は泣いた
昼も夜も泣いた
月は女を見ていた
アーモンドの形をした目に泪をためて女は月を見上げた
月はかわらず女を見ていた
月はかわらず女を見ていた
月の蒼い明かりが女の泪を糸のように巻き上げ
月はその糸で夜を蒼く蒼く染め織り上げていった
その夜の中で
女は再び恋に落ちた
その女は
今も
そこで暮らしているという
冷たく蒼い月
今でも
満月を過ぎると
その女の横顔を
蒼い月が照らして
女は歓喜の泪を流すのです