パラダイム
「ごちそうさま」
そういうと姉は部屋に入っていった
お母さんは洗剤を何回もスポンジにつけて皿を洗っている
泡だらけなのにまた洗剤をつけて
ぼくは電子レンジの上のかごからポテトチップの袋をひとつ取ると
二階の自分の部屋に戻った
パソコンはつけっぱなし
マウスを触るとすぐたちあがった
読みかけの雑誌を開く
ポテトチップの袋を開ける
メールが入る
「無料体験版」
ポテトチップをかじりながら雑誌に目を落とす
「無料体験版 時空旅行」
目に入った画面の文字を見直す
メールを開いてみた
「このたびはご契約いただき、誠にありがとうございます。私どもはお客様のニーズに合わせ、個別にプランニングさせていただいております。まずは無料体験版からどうぞ。」
となりの姉の部屋から話し声が聞こえる
友だちか彼氏と携帯で話しているんだろう
階段の下からは皿と皿がカチャカチャと触れあう音
「時空旅行」
とぼくはつぶやいた
「まずはここから」
というところへカーソルを持っていってみる
ポチッ
さぁ 目が覚めるまで
もうあなたの時空旅行は始まっています