錯視
真夜中に
シャワーを
一枚皮の身体
ぬるいお湯が頭のてっぺんから爪先まで
爪先から床の排水溝へ
わたしの身体には入り口がいっぱいあって
出口がない
シャワーをかぶったまま目を開けてみると
格子模様の風呂場のタイルがすぐ目の前に見えた
目を細めたりおっきくしたりしたら
タイルはいつものところにあって
目の錯覚だと気づいた
ちいさいとき
グラウンドのフェンスが同じように見えて
気持ち悪くなって砂をぶつけたっけ
フェンスづたいにずっといっても立ち止まるたびおんなじで
そのたびに格子模様の間から向こう側の空が
白い入道雲を抱えているのが見えた
昼顔の蔓が絡まっているところまでいってみると
向こう側で薄桃色の昼顔が
ぬるい風に吹かれゆらゆらしていた
あのころ
目の前にあるものがすべてで
目の錯覚なんて誰がそんなでたらめ言ったんだろうって
しおれていく昼顔をみながら思った