スパゲティ
焼けついてアスファルトに跡を残してしまいそうな夏は
前を行く人の背中を見失いそうになりながら
夕立の匂いと眩暈とを交互に連れてきて
排水溝の湯気に誘われてビルの階段を上がると
ゴブラン織りのソファにあなたが腰掛けていた
冷たい水をおかわりして窓際に目をやると
雑居ビルの窓枠に緑の蔦が絡まっているのが見えた
病院らしき建物の屋上の洗濯干し場はゆらゆらと陽炎が立ち上り
空は情けないほど青く抜けていて
雲は出しすぎた真っ白の歯磨き粉みたいにビルに乗っかっていた
ふたりして山盛りのスパゲティを食べながら
スパゲティが山から崩れていくのをぜんぜん減らないねなんていいながら
ただ崩れていくのを見てた
グラスの水滴がテーブルに輪をつくる
あなたが水をおかわりするたびにテーブルの輪が増える
窓の外の陽炎は階段をつくり
もう窓枠からはみ出してしまってその先は見えないところへ続いている
ぜんぜん減らないスパゲティをフォークの先で引っぱって繋いで
全部階段に置いていこうか
そしたらどこまでいけるかな
やっぱり見えないところまで続いているのかな
グラスの水が空になったとき
白い紙ナプキンがひらひら舞って
お皿の上の赤いケチャップの上にぺたっと乗った