古本と古猫

女神ちゃん

2011年09月15日 22:12

人がはまってる本を自分も読みたくなって
十数年前に東京のあちこちで買い込んでた本を探しに実家へ行った
小学生の頃読みあさった本を、大人になってから再び読みたくなって
古本屋で買い求めて揃えたシリーズ物だった
ほぼ全巻、いや全巻ダンボールに揃えてしまっていた
はず

が、ない


さほど広い家でもないのにない
車庫の二階とか、ふとん部屋とかあらゆるところ探したけど見つからない


探し物に疲れて
縁側でぼやーと外の畑を見ていると
黄アゲハがひらひらと目の前を飛んでいった

ばあちゃんが

「一週間前まで黒アゲハが毎日やってきよったけど、こんようになった」

と言った
じいちゃんは薪を積みなおしている
手を休めて
わたしを見上げ

「これはどこの子や」

とばあちゃんに聞いて怒られている




年老いた猫がじいちゃんの座布団の上で丸くなっている
飼い猫のほかに捨て猫が数年前から住み着いた
じいちゃんとばあちゃんにとっては飼い猫も捨て猫も同じ猫
特にじいちゃんにはもう区別なんかぜんぜんつかない
猫ちゃんに区別なんてつけられない
それをある事情から飼えなくなったので捨てに行くというのである
捨てに行く側の主張としては、後から住み着いた猫は元々飼っているんじゃないから
というのである
事情が事情で、反論できないばあちゃん
人知れずこっそり残り餌をあげていたんだろう
増えてもこれ以上は・・・と住み着いた猫も手術に連れて行っていたらしい
そしてなにもわからないじいちゃん
たぶん、家族の中で誰も猫嫌いなんていない
ただ事情が許さないということ


そうは言っても捨てることなんかできないだろう
と思っていたわたしは久々に実家へ行った今日
2匹の猫がいなくなっていることをばあちゃんから聞かされた

縁側に座って畑を眺めるばあちゃん
その背中に寄り添うように丸くなる年老いた猫

「この子たちとわしとじいちゃんとどっちが先に逝くんやろうなぁ
 どうしたってそう長いことは生きられん」

そう言ってしわくちゃの手を猫の背の上に置いた


雲は山の稜線から離れひとつ高いところに浮かび
秋の空の高さ深さをもの言わずも教えてくれる



ミャー

擦り寄ってくる猫の背中を撫でたら
背骨がごつごつと手に当たった
猫はコテンと横になり背を丸めて眠った


見つからなかった古本と
いなくなってしまった捨て猫ブチとトラ


本は図書館で借りればすむこと
なのにあれだけ揃えたシリーズ物を
と、惜しいと思ってしまう
なくても生きていけるのに
ていうか今まで十数年ずーっとほうっておいたものなのに
ないとなると惜しいと思う
猫は変えない事情があってたぶん実家の近所に捨てた人がいるんだろう
それをまた飼えないからと捨てに行った家人

そんなに躍起になって、人間何がしたいんやろう

ただの自己満足 私利欲のためになんでもあっちやりこっちやる人間
人間はほんとに愚かで
情けない生き物だ



捨てられた猫と見つからない古本
一見なんのつながりもないこの二つが
なんだかわたしの気持ちに重く蓋をした


ススキが穂を開いたのを眺めながら
しゃれこうべの首が垂れてるみたいだな
なんて思いながら
残暑厳しいススキの街道を
ゆっくり回り道しながら帰ってきた





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