「連れてきました」
そういって警官が扉を開け、中へ通された
そこには事務用のグレーのデスクがいくつか並べられ
一目見て刑事とわかるガラの悪い男が数人、イスに座ったりデスクに腰掛けたりしていた
わたしはその中のひとつに座らされ
目の前に濃いグレーのスーツを着た大柄な男が立った
「こんなところまで来ていただいてすみません。二、三伺いたいことがありまして」
言葉こそ丁寧だが、まったく敬意のない薄っぺらい話し方だ
「なんなんですか、いきなり。連れとはぐれてしまって、探しているんです。連れたちもわたしを探していると思うんですけど」
「先ほど、子供服のお店で何か買われましたよね。レジに並んでらっしゃった。そのときなにか見ましたか?」
「は?何をですか?」
「だから何か見てないですか、とお聞きしてるんです」
「だから何を?レジには並んでいましたが、買い物を止めようと思って戻ったら連れがいなくなってたんです」
「それで?」
「それで2、3軒先まで探したけど見つからないから迷子センターに行ったんですけど、なんなんですか?」
「レジに並んでる間、一度も振り向きませんでしたか?」
「え~?そんなこと覚えてないですよ。なんかあったんですか?」
「なにか変わったことありませんでしたか?お連れさんが何かを目撃したとか」
「知りませんよ。第一はぐれてしまってるんだから」
「よく思い出してください。レジに並んでいるあなたの後ろでなにか変わった動きはありませんでしたか?」
「え~?なんなんですか?理由も述べないでいきなりこんなとこ連れて来られて。連れが探してると思うんですけど」
「大事なことなんです。思い出してください」
こんなやり取りがしばらく続いた
さすがに刑事も飽きたのか、タバコに火をつけ外へ出て行った
「ちょっと、もういいですか。ものすごい迷惑なんですけど」
「ご協力お願いします」
そばの若そうな刑事に声を掛けたが無愛想に返事が返ってきただけ
なんなんだ これは
監禁だ
後ろのデスクを見ると30代とみられる刑事が何か書いている
よくよく見ると幼馴染のかっちゃんではないか
「かっちゃん!ちょっとなに?刑事になったの??ていうかなにこれ。よかったー、もう帰してよ」
「はい?」
と顔を上げたらかっちゃんには似ていたが別人だった
「・・・すんません。人違いでした」
刑事は面倒くさそうな表情をして再び書類に目を落とした
他の刑事も眉をひそめ団扇をパタパタやっていたり、書類を見ている者、出たり入ったりする者
誰しも話しかけにくいようすだ
えー なにこれ
なにが起きてるの?
さっきの刑事が帰ってきた
「実はね、あなたのお連れさんたちがある重大な事件を目撃したんじゃないかってことで、お話伺ってるんですよ」
「は?」
「あなたがレジに並んでる間にお店のほうで事件が起きまして、それがお宅のお連れさんたちのすぐそばで起きたんです。なのでお話を伺ってるんです」
「どういうことですか?」
「今別室でそれぞれお話を伺ったんですが、よわりましたね。だれも何も見てないというんです」
「母はいるんですか?娘は?友人や叔母や弟や甥っ子たちも一緒なんですか?」
「みなさんおられると思います」
「思いますってなんですか、会わせてください。なんなんですか、こんな長時間こんなとこに監禁して。母は体が悪いんです。早く母に会わせてください」
「いや、それはできません」
「なんで!」
「お互い情報を交換し合うといけないですから」
そういうと刑事は冷たい目でわたしを見下ろした
「交換しあう情報ってなに?何が知りたいの??なにが起きたの 何も言わないで一方的に何を見た、っておかしくないですか」
「だからみたままをおっしゃっていただけたらいいんです」
だめだ
なにか隠してる
こいつら絶対言わない
どころか
帰してくれない
直感は色濃くなっていった