孝行鶏

女神ちゃん

2014年08月26日 04:01

夜父から電話があった 
こんな時間に
というような時間に
そんなときはたいてい酔っぱらっていて、電話の向こうで泣き始めるので、
正直面倒くさいなと思い、出るのをためらった
しかしやたら電話が鳴るので出てみると案の定、
第一声から酔っぱらっている気配がした
なんだか嬉しいのと感動しているのとで泣いているらしい
何かと思えば、鶏の清子(キヨコ)が卵を産んだというのだ
つい数日前までわたしはアパートで鶏を飼っていた
訳あって譲り受けたひよこを育て、いつか卵産んだらいいなぁ、
なんてぼんやりうっとりしながら清子をなでて暮らしていた
ところが数日前、決まって夜10時半を過ぎるとコケコケーっと鳴く困った子になってしまった
真夜中の静かな住宅街に響く鶏の声
それはとんでもなく大きい鳴き声に聞こえて、3晩続いたある夜、
娘と清子を乗せ真夜中の山を車を走らせ実家へ引っ越したのだ(清子だけ)
それから清子と父の奇妙な共同生活が始まった
祖母の話によると父は家の周りの作業をするとき清子を鶏小屋から出し、
自分のそばに置いて仕事するようになった
目の届かないところに勝手に行ってしまうようなことのない冒険心の乏しい清子は、
いつも父の周りをうろうろしながらミミズや虫をついばみ、
父の仕事のお供をするようになった
ひよこだった清子が大きくなってアパートで飼うのが難しくなってきた頃、父に相談したら
一度は喜んで引き取るといい、せっせと鶏小屋までこしらえて待っていたのに、
毎日餌をあげなくてはならない、あげくになんらかの奇形?によるのか、卵を産まない
とわかると
「そんな」面倒くさい、卵も産まんような鶏は潰して食べた方がいい」
などと過激発言したため、せっかく作ってくれた鶏小屋そのまま空室でゴミ入れと化していたのだ
それをひやひやしながら毎日餌やりに通い、父の機嫌をとり、清子を撫で散歩に付き合うこと一週間
ついに清子初出産となったのである
すっかり親心のついた父はその清子の初出産に喜び咽び泣いたというわけだ

「お父さん、その卵食べていいよ、お父さんがもらってよ」
というと父はうれしさのあまり初卵を仏壇にお供えしているという
そしてその初卵はお前がいただくべきだというのだ

「かわようてかわようて、あんなに小さい鶏が小さい丸い卵ころんと産んでおった、うれしゅうてな」
と泣くのである
そんなふうに喜ぶ父を見て、
自分が産んだわけでもないのに
なんだか親孝行したような気持ちになり
親子共々幸せな気持ちになった日曜の夜だった

清子よ、ありがとう





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