坂道

自転車を押して信号待ちしていると、
向こうから4、5才の小さな男の子が走って来ました

丸刈り裸足にズック

わたしを追い越し後ろに並んで信号待ち
信号が青になったので気になって振り向いたら、その子はわたしとは逆の方へぱたぱたと走っていきました
その先にはお土産屋さんがあり、前掛けをつけた母親と思われる若い女性が立って微笑んでいました
でもその女性は男の子に「こんにちは」と声を掛けたので、
あぁお母さんじゃないんやな、
と思いわたしは自転車を押して坂道を上がり始めました

すると後ろからぱたぱたと足音が聞こえてきて追い抜きざまに

「こんばんは」

と男の子に声をかけられました

まだ昼下がり
なにか不思議なうきうきした気持ちになり、わたしも

「こんばんは」

と返事をしました

男の子はそのまま小さな手を握りしめぱたぱたと坂道を駆け上がります
坂が急なのでわたしは身体を斜めにして自転車を押して上がります
男の子は走っているのに、わたしと歩幅を合わせるようにわたしのほんの二三歩を走ります
彼について長い坂道を上がります

細い坂道の両脇の広葉樹は赤から茶色に代わりかけ、
はらはらとその葉を落とす木もあれば、小さな子どもの手の平のように葉を広げ、
今黄色から赤へ移り変わる木もあります
小春日よりの柔らかい空気が山の上から降りてきます

坂のその上に森があり、その上は絵の具で塗り広げたような青空です
背中からは陽がさし、自転車を押すわたしの影と前を走る男の子の小さい影が長く延びています

その影と、石垣に絡まり生える真っ赤な蔦に目を奪われていると、
その先の曲がり角を越えたとき、男の子の姿はぱたりと消えてなくなっていました
坂道のてっぺんでわたしはようやく自転車のサドルに腰掛け、

あの男の子は誰やったんやろう、

と思いながらゆっくり坂を下りました



坂道



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Posted by 女神ちゃん at ◆2020年11月18日19:20スキマ
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