父の話

よい天気
久々に畑を存分楽しめると思っていたのに、
毎週毎週何らかの用事が入っててなかなか畑に居座れない
陽が長くなったとはいえ太陽は沈むのを待っててくれないし、
新聞屋の自転車の音で夜は明ける
毎日毎日これらを繰り返し、
土日のささやかな楽しみに向かって生きている
わたしたち一般人はそんなところ

わたしが幼い頃からほとんど家にいたためしがなく、
若い頃から好き放題やっていた父親が嫌いで、
思春期などまともに会話もしたことがなかった
どころか、
たまに口を開けば掴み合いの大喧嘩
高校を卒業して実家を離れ、最初に体をこわして休職をやむなくされたとき、
体の悪い母の代わりにやってきたのは父親で
祖母の作った野菜と米を段ボール箱につめて、車で5時間近くかけてやってきた
二人で店屋物の出前を取り、何をするわけでもなく
狭いアパートに布団と座布団を無理矢理並べて二人並んで寝た
もちろん会話などはずむわけもなく、まだ若かったわたしは
それまでの数々の衝突と素直に向き合ったことなどない長い時間の中で
どうやって口をきいたらいいのかまったくわからなかった

そんなわたしに翌朝父は
「しんどかったらまた電話して来い」
とだけ言ってまた車で5時間近くかけて帰っていった

母の体調が思わしくなく実家に帰ることを余儀なくされ
地元に就職した後も父との関係は変化を見せず
口を開けば大喧嘩
当然肩をもんだり足を踏んだりなんて親孝行はしたためしがなく
目もあわせない日々

そんな父との関係がある日を境に変わった
結婚当初、実家、嫁ぎ先ともに大きな問題を抱え、一家離散に追い込まれ
もはや生きる望み等ないとまで思えた暗闇に突然光を照らしてくれたのが
娘の誕生だった
純真無垢という言葉は生まれたばかりの赤ん坊のためにあるんだと思った
くにゃくにゃの赤ん坊を不慣れな手つきで抱く父の顔は、
どこにでもいるおじいちゃんの顔だった

孫見たさでまだ食べれもしないお菓子を買っては家へ訪れる父
泣いたといっては抱っこし、寝ているときは一緒に寝転がって頬ずりする父

若い頃自分が見たことのない表情で娘に接する父を見て
もしかして自分が生まれた頃はこんな顔を見せていたのかもしれない
と思うようになっていった

勝手に離婚したときは
怒らず黙って最後まで話を聞いてくれ
「まずは子どものことを一番に考えよ」
とだけ言ってくれた
そういう自分はどうなんよ
という思いがなかったわけではなかったが、
自分の両親の夫婦という形しか知らないわたしにとって、
子どものことを一番に考えた結果、離婚という形が正解だったのかは未だによくわからない

そんな父と母も離婚し、それまで皮一枚でつながっていた家族だったわたしたちはほんとうにばらばらになった

天使だった我が家の娘も中学生という難しい時期にさしかかり
おじいちゃんである父に対しても反抗期むきだしで、
娘のこころない一言でいっそう小さく見えるその姿に
申し訳なさと情けない気持ちと腹立たしい気持ちが押し寄せて
つい娘を叱ってしまう自分

しかし自分も反抗期、父に同じような態度をとっていたではないか
どころか、いまでも素直に向き合うことができないでいる



今年春、わたし主催のちょっと大きいイベントをやった
それまでわたしのやることに何の関心も示さなかった父が
当日何度も何度も会場を訪れ手の足りない裏方を手伝ってくれた
会場の一番はしっこの薄暗い席で酒を飲み、じいっと音楽を聴いていた

年をとってから酔うと涙もろくなり、
酔っては泣いて電話をしてくる父
この日も声をかけてくれたアズミさんの手をとり何度も頭を下げ
涙を流していた

正直かんべんしてくれ
という思いがなかったわけではなかったが
わたしのことでそんなふうに頭を下げる父の姿をみるのがたぶんそれがはじめてだったので
なんともいえない気持ちになりそこにいられず
アズミさんに後を任してしまった
すんませんでした


近頃、
畑でわたしが作業をしていると
いつの間にかやってきて草刈をしてくれたり
豆の枝を絡ませる支柱を立てたりして手伝ってくれるようになった

なにも話さず黙々と作業する父と子


若い頃は比較的おしゃれだった父は
年をとってからいつも作業着ばかり着ていておしゃれを楽しむこともないようで
父の日、
痩せて小さくなってしまった父になにか服などプレゼントを
などと似合わぬことを突然思い立って買い物に来てみたはいいけど
サイズも好みもわからない

そうか
親子なのに
なんにも知らんのやな
と思い知って
酒に変更しようかと思ったが
また酔っぱらって泣いて電話をかけてくる父の姿が想像でき、
やっぱり服にしようと似合わないリボンまでかけてもらった


その青いリボンをかけた箱を持って
今から父のところへ行ってきます

何年ぶりの父の日だろうか


今まで一度も言ったことないけど
元気で長生きしてください

ありがとう お父さん









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Posted by 女神ちゃん at ◆2014年06月15日14:07
この記事へのコメント
いい父さんだね。

いい娘だね。

いい孫だね。



私の父も、母と離婚していたんだよ。
死んじゃったときは、私が喪主。

でも、全然、恨んでなかった。
父の小さな部屋の中から、おもちゃがたんまり出てきたんだ。
封も切らずにね。
私の娘のプレゼントだったの。
何度も、私の近所のおもちゃ屋で買った形跡。
なかなか来れなかったんだね。

私も、父にもう少し、なんか買ってあげれば良かった。
一緒に飯食ってれば良かったと、父の日に想うのよね。


きっと、お父さん、たんぼちゃんのプレゼント喜ぶよ。
嬉しいと思うよ。

笑顔が思い浮かべられるな。
だって、高山パラダイスの翌日にお会いしたものね^^

お父さんに宜しくね^^v
Posted by ひーちゃん at 2014年06月16日 16:17
ひーちゃんサマ

ありがとう
そだね、うちの父ちゃんに会ってくれてたんだね(汗)
ひーちゃんやアズミさん、あの日来てくれたミュージシャンやお客さんやスタッフの子たち、
そんな大事な人たちを父に紹介できてほんとにうれしかった

未だにまったくもってダメダメな親子ですが、自分もこうして年を重ねて
まだ若かったあの頃の父親の思いや気持ちなんかが少しずつわかってくるような気がしています(わたし父ちゃんも母ちゃんも兼任だしね)

ひーちゃんのお父さんも毎年、父の日に三番のカウンターでラーメンすすってるよ、きっと 

あー、ギョウザ食いたい・・・
Posted by 女神ちゃん女神ちゃん at 2014年06月18日 21:37
お元気ですか、女神ちゃん。

男も女、所帯持ったら旦那に嫁はんになって、おとん、おかんになって
おじん、おばんになっていきます。途中しんどなってサボってしもて、こら
アカンと気ずいたり、気ずかんふり通したり。

明日クークー、自分の娘よりずっと若い松井さんライブです。

気ずかしてもらいますわ~
Posted by りん田まつ田 at 2014年06月20日 11:34
りん田まつ田サマ

最近サボりっぱなしのわたしです
そんなことさえ気づいてませんでした あれま

アホの松井さんによろしく
Posted by 女神ちゃん女神ちゃん at 2014年06月20日 18:05
もーー。泣かす(涙)
娘を持つ父として、物理的に接する事が少なかった父として、実際どうなんやろって…考えたくなくて、俺はそこから逃げてるねんなぁ^^;
でも愛は注いでる。我が息子、娘、大好きやから^ ^
Posted by まっちゃん at 2022年09月22日 22:05
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