アンカリング
9月 車の窓を全開 風をうけながら国道を走る
今年は夕立もなく 雨も少ない
気温が高いせいなのか 空気が乾燥しているせいなのか
目に映る緑が 空が こころなしか霞んで見える
助手席の君も
僕の髪も 風に乱され宙に舞う
道路沿いの温度版は「30℃」
どんどん気温は上がり続ける
たあいもない話をどちらからともなく ぽつぽつとつなげ
車はひたすら南下する
川沿いのゆるいカーブをまわったとき ふと甘い匂いが車の中に飛び込んできた
「葛 、 葛の花」
僕は匂いの記憶の引き出しを開けた
夏休み 真っ黒になって泳いだ川の源流
河原に蔓を垂らす葛の花
白いガードレールに乗せられた緑の大きい葉に その上にそっと乗せたように咲く紫の小さな花
その小さいのに強いにおいを放つ葛の花に、同じ甘い匂いを思い出した
「どこ?」
「ほら あれ あの紫の」
風を受ける君の横顔に髪が邪魔をしている
助手席の君は何度も髪をかき上げる
見えないけど 隣で君が髪をかき上げたり、遠くの景色を見たり、伸びをしているのが気配でわかる
「あと何分?」
「あと10分くらい」
「・・・ちょっと停めてもらえる?」
待避所に停めた車から降りた君は 大きく伸びをしてゆっくりその辺を歩いた
「酔ったみたい」
連日お酒に飲まれ、夜更かしをしたせいか
君はしばらくその辺をぶらぶらして 再び乗り込んできた
僕はもっと慎重に気をつけながらハンドルを握る
車は国道を信号で逸れ、街へと入ってゆく
大きな川を渡り、高架をくぐると駅だ
「駅用」
と四角い字でアスファルトに書いてあるところを見つけて停車した
電車の時間まであと22分
君はベンチに座り込んだ
うつむいて何も喋らない
僕はそっと君の肩に手を置いてみた
置いたもののどうしたらいいかわからず ただ背中や肩を押したり さすってみたりした
「ごめんね」
「こっちこそごめん 酔わせちゃったみたいだね」
「もう車酔いはしなかったのに」
君が悪いわけでない
僕はあたりを見回した
観光客と地元の人が、昨日の最高気温は39度まで上がった などと話している
自販機で水を買ってきてそっと君の首にあててみる
ペットボトルの表面が結露で曇る
ゆっくりと顔を上げる君の目が少し潤んでいる
「ごめんね」
僕はなにも言えない こんなとき僕は何も言えない
「電車、もう一本遅らせる」
と君が言った
僕はそのとき心の中で申し訳ない気持ちと同じくらい、ポッと心が温まるのを感じた
弱ってる君の隣で 不謹慎な僕はうつむいた
君が乗るはずだった電車がホームを出て行く
日曜だからか、今出た電車が普通列車だったせいか 駅は人がまだ行き交いしていた
今年は夕立もなく 雨も少ない
気温が高いせいなのか 空気が乾燥しているせいなのか
目に映る緑が 空が こころなしか霞んで見える
助手席の君も
僕の髪も 風に乱され宙に舞う
道路沿いの温度版は「30℃」
どんどん気温は上がり続ける
たあいもない話をどちらからともなく ぽつぽつとつなげ
車はひたすら南下する
川沿いのゆるいカーブをまわったとき ふと甘い匂いが車の中に飛び込んできた
「葛 、 葛の花」
僕は匂いの記憶の引き出しを開けた
夏休み 真っ黒になって泳いだ川の源流
河原に蔓を垂らす葛の花
白いガードレールに乗せられた緑の大きい葉に その上にそっと乗せたように咲く紫の小さな花
その小さいのに強いにおいを放つ葛の花に、同じ甘い匂いを思い出した
「どこ?」
「ほら あれ あの紫の」
風を受ける君の横顔に髪が邪魔をしている
助手席の君は何度も髪をかき上げる
見えないけど 隣で君が髪をかき上げたり、遠くの景色を見たり、伸びをしているのが気配でわかる
「あと何分?」
「あと10分くらい」
「・・・ちょっと停めてもらえる?」
待避所に停めた車から降りた君は 大きく伸びをしてゆっくりその辺を歩いた
「酔ったみたい」
連日お酒に飲まれ、夜更かしをしたせいか
君はしばらくその辺をぶらぶらして 再び乗り込んできた
僕はもっと慎重に気をつけながらハンドルを握る
車は国道を信号で逸れ、街へと入ってゆく
大きな川を渡り、高架をくぐると駅だ
「駅用」
と四角い字でアスファルトに書いてあるところを見つけて停車した
電車の時間まであと22分
君はベンチに座り込んだ
うつむいて何も喋らない
僕はそっと君の肩に手を置いてみた
置いたもののどうしたらいいかわからず ただ背中や肩を押したり さすってみたりした
「ごめんね」
「こっちこそごめん 酔わせちゃったみたいだね」
「もう車酔いはしなかったのに」
君が悪いわけでない
僕はあたりを見回した
観光客と地元の人が、昨日の最高気温は39度まで上がった などと話している
自販機で水を買ってきてそっと君の首にあててみる
ペットボトルの表面が結露で曇る
ゆっくりと顔を上げる君の目が少し潤んでいる
「ごめんね」
僕はなにも言えない こんなとき僕は何も言えない
「電車、もう一本遅らせる」
と君が言った
僕はそのとき心の中で申し訳ない気持ちと同じくらい、ポッと心が温まるのを感じた
弱ってる君の隣で 不謹慎な僕はうつむいた
君が乗るはずだった電車がホームを出て行く
日曜だからか、今出た電車が普通列車だったせいか 駅は人がまだ行き交いしていた
Posted by 女神ちゃん at
◆2010年09月06日12:33
│スキマ