菜虫化蝶

砂利の細道を分け入っていくと
去年の秋に枯れ落ちたどんぐりの実が
道の端にころころ
それが雪解けの水を吸って少し膨らんで
ぱちんとはじけている
落ち葉は茶色く水を含んで地面にぺた
と張り付いている
池の水は小さな魚や水草をまだ眠らせていて
水面はときおりゆらとゆれて
底のほうのなにかの意識をあげてくる
池の脇をさらに進んでいくと
その池に注ぎ込む小さな水の筋があって
その水の周りにはセリやクレソンがびっしり生えている
うっかり踏み込むと靴の底からじわっと水が上がってきて
靴の中まで水浸しになる
じぃっとしていると
なんにも音がないので
池のほうからの意識がどんどん大きくなってくる
わたしの意識は池のほうの意識に吸い込まれ
一瞬のうちに飲み込まれてしまう
そこへ一匹の黄色い蝶々がふわふわとあらわれて
わたしの頭の上をとおり
森の奥へと消えてゆく
なにひとつ動きのない静寂の中
一匹の蝶の動が色を添える
目が覚めた
春だ
春がきた
心臓が拍動をはじめる
血が注ぎ込む
木々の幹が水を吸い上げる
どんぐりが芽を出す
虫たちが土から顔を出す
鼓動を打つ
止まっていたものが奮えだす
音がする
春だ
春がきた



スポンサーリンク
同じカテゴリー(スキマ)の記事画像
『おいぬ市』
寝る前、スマホあるある
ポスト
雛様行進
坂道
鉈
同じカテゴリー(スキマ)の記事
 『おいぬ市』 (2024-06-10 13:53)
 helix (2023-06-04 23:02)
 日曜日 (2023-05-21 13:45)
 ジャワカレー (2022-09-11 01:21)
 寝る前、スマホあるある (2022-09-07 01:45)
 じいちゃん軽トラを運転する (2022-09-01 12:45)

Posted by 女神ちゃん at ◆2012年03月18日12:22スキマ
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。