お守りの話

夕べ娘が
友達からもらった
とお守りを手にして言った
「どこの神社の?」
と聞いたが神社名は入っていないらしく
雑貨の類のものであるらしい
娘が紐の結び目をかまっていたので
「中気になる?」
と聞くと一瞬ドキッとしたように手を止めた
「中は見んよ。お守りやもん」
と言ったがお守りの口紐を整えたりして撫でている
「お母さん小さいころお守りの中身見たことあるよ」
「え?何入っとったの?」


当時、たぶん小学校3、4年の頃
親戚のおじさんからある有名神社の学業お守りをいただいた
紫色の手に平にちょうどに乗る大きさの袋には
金糸で模様が織られており
白い糸でその神社の名前が織られていた
ひっくり返すと「学業成就」と確か書かれてあったと思う
少々大きいそのお守りはその日のうちに赤いランドセルの横にくくりつけられた
友達は小さめの白や赤の袋のお守やその年の干支のお守り袋をランドセルにつけていて
わたしはその大き目のお守りがちょっとはずかしかった
紫、地味で大きい
でも親戚のおじさんのうれしそうな顔を思い出すと外すのはなんだか申し訳なく
「これでお前も賢くなるなぁ」
と笑った母親の顔も重なり
ランドセルの横の紫のお守り袋はぷらんぷらんとわたしの歩幅に合わせて揺れて
毎日毎日一緒に学校へ通った
ある朝
クラスの女の子がランドセルに新しいお守り袋をさげて来た
「恋まじないのお守りなんだよ」
と言ってピンクのかわいいお守り袋を見せてくれた
クラスの女子が全員集まって関心を示す
「かわいー!」
「どこで買ったの?」
「だれにもらったの?」

その子は得意げにピンクのお守り袋をランドセルから外して
「見せて」
「さわってもいい?」
と口々にするクラスメイト達に顎を少しつんとさせ
「少しだけならいいわよ」
的な表情をし
「中には幸せの四葉のクローバーが入ってるんだって」
と言った
わたしは急に自分のランドセルにぶら下がっている紫の袋が気になった


あの袋の中身はなんだ


その日の授業はぜんぜん聞いていなかった
教室の後ろのロッカーに整然と並ぶ赤や黒のランドセル
その一個一個にたいていお守りがつけられている
その中身はなんだ?


その晩、
ランドセルの横の紫の袋をしげしげと眺めるわたしに
祖母が米の袋を繕いながら言った
「お守り袋の中を開けたらだめやよ」
「なんで?」
「中には神様がはいっておられるで。バチがあたるんや」
「ふーん」
わたしは気味が悪くなってお守りから手を離した

翌日から
教室のロッカーに並ぶランドセルのお守りたちが
無言でわたしに呼びかけているような気がして
やっぱりぜんぜん先生の話は入ってこなかった


何日かすると
また別の子が今度は中の透けて見えるプラスチックのようなお守りをつけてきた
そこには四葉のクローバーが押し葉のように挟まれていて
小さな鈴がコロンとついていた
またたく間にそれはクラス中の女子の話題となり
その子は間違いなくヒロインとなった
わたしはますます自分の地味な紫のお守り袋がいやになっていった

ある日の日曜
いつものように母は仕事にでかけ
祖母はお寺参りにでかけ
弟と二人で留守番することになった
要領のいい弟は机に勉強道具を広げ
出かける祖母に
「いってらっしゃい」
などと言い
祖母が出ていったらさっさとノートをたたみ
近所の友達のところに遊びに行ってしまった

ひとり家に残されたわたしはしばらく
マンガを読んだり
机の引き出しに入っている「りぼん」の付録の便箋などを出して眺めては
また丁寧に戻したりして過ごした

たいくつや・・・

イスにひっくり返るように背伸びをしたわたしに
床に無造作に置かれていたランドセルが目に入った
紫のお守り袋が意識を持っているようにわたしに呼びかけてきた
ような気がした


わたしは床に座りなおし
ランドセルから丁寧に袋を外した

紫の袋の口を結んである白い紐のややこしい結び目をそっと解く

一度解いたらたぶん
この結び方はマネできないだろう

それでもわたしは中身が知りたかった
袋の中身がわたしの心をガシっと掴まえていて
もうその大きな手、指からは逃れられる隙は寸分すらなかった

解けた紐を置き、中をそっと覗くと白い内袋の中にさらに紙に包まれたものが見えた
一瞬躊躇したがわたしはその包み紙をそっと取り出した
これもまた難解な折方がしてあり
やはり中になにか包まれているようだった

これも開けたらまた元通りに直せるだろうか

そんな考えがよぎったがもうここまで来たら後には引き返せない

そっとしろい和紙を開いていくと
米粒が落ちてきた
何か文字のようなものが書いてある紙のようなものと
木の札のようなものが入っているようだった

心臓が高鳴る
神様!!!


突然玄関が開いて祖母が帰ってきた
わたしの心臓は跳ね上がった

慌ててその包み紙とお守り袋を机の引き出しにしまった


その晩はまったく眠れなかった

お守り袋を開けてしまった
バチがあたる
神様が怒ってやってくる
神様に殺される!
!!!


次の日袋を元通りにしようとしたが
やはり元通りには紐を結べなかった
わたしの紫のお守り袋の口紐はだらんと変に長い蝶々結びのお守り袋になった
母や祖母にばれないようにランドセルの横にくくりつけると
何事もなかったのように振る舞い学校へ行った

長い蝶々結びのお守り袋はそれから数年間、
赤いランドセルの横で揺れ続け
わたしは神様に殺されることなく無事小学校を卒業できた
そして殺されるまではなかったにしても
学業成就とは言いがたい学業を修め
今日に至る




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Posted by 女神ちゃん at ◆2012年12月05日10:51スキマ
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