スキマ

十数年前の冬
東京から帰るのを決めたとき、
高山から弟がハイエースで引っ越しの手伝いにきてくれた

よく晴れた日の朝
冷蔵庫や洗濯機を積み、ぱんぱんになったハイエースは
中央道をガタガタ言わせて西へ走った
カーブのたびに車体がひしゃげるような感覚に時々ヒヤッとしながら
二人で音楽の話や子どもの頃のことをぽつぽつと話した

途中の小さなサービスエリアで休憩をした　
弟はうどんとおにぎりを食べた
あんまり天気がよいので
外のベンチで腰掛けていたら子猫が寄ってきた
弟は食べていたおにぎりをちぎって猫にあげていた
おにぎりがなくなってしまったので今度はカレーパンを買ってきた
が、結局それも猫にあげてしまった

なんで今ここに弟とおるんやろ


抜けるように青い空の下にいては
自分がどこにいて、なにをしているのかわからなくなる

なにかを置いてきてしまったのか


そこからの道のりも弟はわたしに何も聞かず
ただハイエースのハンドルを握り
自分のバンドの話やバイクの話なんかをたまにぽつぽつと話すくらいで

のんびりと青空の下
車体きしませながら富士山を背にし
高山へひた走った

あの日も

こんなよく晴れた冬の日だった