Xさん 3

「柴田さんなにやったんですか?」
婦長に詰め寄る

「なにもやってないわよ~。ただ、住所不定だし、事件の可能性もあるし救急隊が一応通報しただけよ」



なーんだ

柴田さん

Xさん


なんだXでもなんでもないやんか
ただの糖尿か~

ちょっと残念


肺炎落ち着いたらさっさと退院しちゃうんか



コンコン
「失礼します。検温です」

302号室へゆるゆるの突入である

「お世話になります」

日焼けだか垢だかわからないけど黒い顔したXさんはベット上で正座をしてわたしを迎え入れた

「どうですか?ご飯は食べれました?」
「おいしくいただきました」

完食である
でも、こんないっぺんに食べてお腹大丈夫??


まだ少し熱はあるが、点滴、食事、休養ですぐ回復するであろう


問題は

この人の名前だ


思い出せないらしい

いつからか



その日は福祉の担当者も来て、今後について病院側も含め話し合いがあった




この病院は工業地帯に近く、労働者の町であり、同時に喘息や公害の町でもあった
いつも煙が空を覆っていて、病院の横を流れる大きな川はヘドロで澱んでいて、いつもへんなにおいがしていた
町はごちゃごちゃと狭い道が縦横無尽に走っており、駅前は風俗店がひしめいていた
この駅を使ってお出かけするのだが、夕方、夜になるとまっすぐ駅まで誰からも声をかけられず行けた覚えがない
「おねえさん、どこいくの」「いいバイトありますよ」「あそぼうよー」「ヒュ~!」


今思うと、なんて危なっかしい町に住んでたんだろう
よく親はこんなとこに住むと言った10代の娘を許したな と


話がそれた

そんな町なんで、いろいろと問題ややっかいごともひしめいていて、そんなやっかいごとを一手に引き受けているような病院だった



Xさんのようなひとはこう言っちゃ悪いが、引き受けてくれる病院がない
救急隊もわかっていて真っ先にここに連絡してきたんだろう


今目の前に正座しているXさん
46才と書いてあるが、もうちょっといってそう
頭事情は寂しげだが、お風呂入ってきれいにしたらそれはそれでおとこまえになりそうである


「わたしはいつ退院できるでしょうか。仲間も心配していることと思うので早く帰りたいんですが」

「そうですよね。いきなり入院しちゃったんですから心配されてますよね。福祉の人が知らせてくれると思うんですけど、また聞いておきますね」


「お願いします」

このXさん、肺炎が落ち着くのと平行して糖尿病の食事指導が始まるのである

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