バトル 6

病状が変わったとき、状況が変わったとき
本人や家族に説明をし、今後の治療法
それに対する問題、目指す方向などを話し合います

今回は奥さんへ現在の病状説明、本人にどこまで話すか
の確認です

「あまりよくない状態です。抗がん剤の期待もあまり望めませんし、体力を奪うだけのようです。会わせたい人がいたら意識のあるうちに」

「本人には胃潰瘍ということで通したいんです。気丈に見えますがほんとのことを知ったら、どうなってしまうか・・・」
と奥さん

脇田さん、脳にも転移していました
そのせいか
体中の痛みはあまり訴えませんでした
ただ
食欲は落ち、腹水が貯まってきており
前のような威勢のいい脇田さんではなくなってきていました



脇田さんに会いたい人
脇田さんが会いたい人


脇田さんに会いたい人は
会いにこればいい

脇田さんが会いたい人は


脇田さん会いにいけないじゃん


脇田さん
今どうしたい??



「脇田さーん、夕飯です」

「食べたくない」

「そうかぁ  なんか食べたいものとかあります?」


「うなぎ  うなぎ屋で食べたい」

「ん~うなぎ屋か」


しかし外出許可はおりません
しかたなく出前を取ることにしました
奥さんと脇田さん、それになぜかわたしも
三人で病室でうなぎ
いいにおい

でも脇田さん半分も食べないうちにお腹いっぱいだといって横になりました

脇田さんの眺める空には何がみえるのかな


食べ物残すのきらいなわたしも
この日のうな重は最後まで食べてしまえませんでした




いつものように背中をさすっていると

「なぁ おれは胃潰瘍なんかじゃないだろ  癌なんじゃないのか?」



「ただの胃潰瘍でこんなに痩せてしまうはずがない。もう治療のしようがないのか。ほんとのことを言ってくれ」


「脇田さん、先生からおはなしありましたよね。潰瘍といっても重症なんですよ、脇田さん。だからゆっくり養生しましょうよ」


脇田さん納得できんという顔をしてそっぽをむいてしまいました

「おれはうそはきらいだ」



わたしだってうそはきらいだ
うそはつきたくない


このころは告知するかしないか半々くらいで
今のようにばんばん告知しましょうって流れではありませんでした

わたしはいつも疑問でした

告知するしない

ではなく

医療のあり方、医療そのものに対して




脇田さんは日に日に痩せ衰え、食べ物もほとんど摂らなくなっていました
ベッドの上でもひとりで座っていられません
ぼーっと外を見てる時間が長くなりました
背中をさすってくれ
という声もかすれ、聞き取りにくくなってます

「なぁ お前は田舎の両親を大事にしろよ」

「ん ありがとう」

「昔は孫をよく風呂に入れた。熱いからと嫌がられてもおれは熱い風呂が好きだったなぁ」

「ん 」

「風呂にはいりてぇなぁ」

「ん 」

「風呂入ってもいいって許可が出たら、お前手伝ってくれるか」

「ん あっつい風呂入れてやるよ ドボンて」

「・・・」

「脇田さん、お孫さんに来てもらおうか。お風呂手伝ってもらおうか」



脇田さんわたしに背中さすらせて
窓のほう向いたまま


窓ガラスに映った脇田さん
顔くしゃくしゃにしていました








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