Xさん 5 最終話

それから数ヶ月

真夏の暑い午後

いつものようにごみのたまったドブくさい路地を抜け
駅へ向かった

切符を買い、新聞紙が置かれたままのホームのベンチで一服

生ぬるい風が髪を揺らした


「あちぃ~」


ゴトンゴトン

ゆっくり電車が入ってきてホームで待っていた何人かがぱらぱらと乗り込む

平日の午後2時

こんな駅利用する人なんてほとんどいない


がらがらの電車の入り口付近に腰を下ろす


車窓からの見慣れた風景

休みだったのでちょっと町までショッピングでも行くか~
うちいても暑いだけやし

さして目的もないまま電車は揺れる

運ぶ




何気に電車の中を見渡すと










「柴田さん」


「たんぽぽさん!」




恋人同士の再会のように顔中笑顔でいっぱいにしてXさん登場である

うれしそうに駆け寄ってくると、隣に座った

うら若き乙女、かたやホームレス風

電車の中のまばらな乗客のまばらな視線がちぐはぐな恋人同士に注がれる
 


「お元気でしたか?」

それはこっちのせりふだ


「いや~たんぽぽさんにはお世話になりました。Tさんたちもお元気ですか?」


なんだかちょっとにおう
一応シャツは着てるけど、ヨレヨレ

「いや~毎日暑いですね」


なんだかこちらの問いを、気持ちを察するようにしゃべくり続ける
入院中こんなに自分から話す人じゃなかったのに


「どこかおでかけですか?」

やっとで聞いた問いに

「えぇ  知り合いのところまで」

そういってわずか5分の次の駅で柴田さんは降りていった

「病棟のみなさんによろしく」



電車の扉が閉まる

ホームに立つ 笑顔で電車を見送るXさんの足元はボーリング場の貸しシューズだった







終わり





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この記事へのコメント
今ごろ読みました。

面白い。映画になるよ。
Posted by ねた at 2011年02月08日 16:32
ありがとうございます

ぜひ映画にしてください
Posted by 女神ちゃん女神ちゃん at 2011年02月08日 20:04
ほんとに今頃読みました。文才ありますね。面白く不思議な体験はたくさんあるけどなかなか書けないものです。
Posted by kazoo at 2012年06月19日 16:39
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