酸素ボンベの瀬上さん 3

夏が過ぎ、いつの間にか秋を迎え過ぎようとしていました

盆踊りで賑わった前の公園は紅葉も終わり、子ども達がどんぐりを拾っています


その日、日勤でひととおり仕事を終えたわたしは、病棟も落ち着いていたので残りの時間をどうやってつぶそうか、誰かを誘って公園でも散歩に行こうかな
と考えていました 
一人ではいかにもサボり丸出しなのでKちゃんを誘いました
Kちゃんは認知症もはいっている上野さんを車椅子に乗っけてやってきました

(誰にしよっかな~、森さんは明日検査やし説明あるし、田本さんは点滴中やしなー)

お気に入りの患者さんはみんな入用です

「看護婦さん、消毒薬くれ」

(瀬上さん・・・)

「瀬上さん、散歩行きませんか?」


Kちゃんが目をでかくしてこちらを振り向きました

(なんで瀬上さん??)

Kちゃんの目はそういってました

私自身もなんで瀬上さんなんかわかりませんでした

ただそこに瀬上さんがいたから
というにはあまりにもナンセンスな選択でした

(サボれんやん)

というKちゃんの痛い視線を感じながら無言でエレベーターを降ります


Kちゃんは上野さんの車椅子をさっさと押してわたしたちから離れていきました

瀬上さんは酸素ボンベを押しています
歩行もひじょうにゆっくりです

でも秋を迎えたこの公園に、瀬上さんのこのゆっくりとした歩きがとってもあってるような
なんだか自分も瀬上さんにあわせてるんじゃなく、ちょうど私自身の歩く早さもゆっくりになっていたようなそんな感じでした

ベンチに腰を下ろします

「寒くないですか?」

「・・・」

(え?無反応??)




「・・・うちはなぁ、息子がおるんや」

「はぁ」

「もう長いこと顔を見てない。東京へ学校に行くっていって、それからもうずっと」


瀬上さんはそのあとただ子ども達がどんぐり拾うのを黙ってみていました




「秋やなぁ」

瀬上さんが言いました


「秋ですね」

私も言いました





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