労働者のまち
さて、今日は
病院のお話
ならぬ
病院近辺でのお話
その昔、わたくしはよその町で病院勤めをしておりました
(参照→わたくしのお仕事記事Ⅰ、→わたくしのお仕事記事Ⅱ、Xさん←これ1から5まであります)
この病院のあるまちは労働者の町
いつも空は低く
病院横に流れる大きな川は灰色に澱んで
夏になるといつもへんなにおいがして
近くの中学校は荒れて窓ガラスが割れて飛び散り
堤防より町のが低いから雨が降るとすぐ浸水して
駅界隈は風俗店がひしめき
病院が買い取ったアパートの裏は暴力団の事務所で
いつも近所の家からは茶碗の割れる音がしていた
そんな町
わたしが18才から20代半ばまで過ごした町
なぜそんな町へ行ったのか
わかりません
18才
もしかしたら夢も希望もなにも持っていなかったのかもしれません
ただ
働きながら看護婦の免許を取るという
なんだか遠回りなこの作業を
自分ひとりの手でやってみたかったのかもしれません
いっちょ前の大人になりたくて
そんないきがってたあのころ
ある夏の日
当時付き合ってた気の優しい彼に
車でアパートの近くまで送ってもらい
すぐには別れづらく、今日見た映画の話をして
バイバイして車を降りようとドアに手をかけた
そのとき
車の周りを囲まれていました
労働者のおっさんたちに
「こんなとこでいちゃいちゃしてんじゃねーよ」
「ねーちゃん、降りてこいよ 俺たちとあそぼうぜ」
まるで昭和のドラマです
「エンジン音がうるさくて近所めーわくなんだよ」
「おい あんちゃん 降りてこいよ」
そういって車をどづきはじめました
彼は何かを察知し
すぐに車を出そうとしましたが
時すでに遅し
バン
ピストルの音ではありません
車のドアを閉める音
おっさんたちの前に立ちはだかるわたくし
あぁ なんて命知らず
無鉄砲顧みず
ここには書けないような言葉を発したかもしれません
なにせ昭和のドラマですから
でも時代は平成です
おっさんたちが一瞬ひるんだ隙に
わたくしはおっさんたちの間を通り抜け
アパートへ向かいます
おっさんたちが追いかけてきます
やばい
はじめて自分のしたことがとても危険なことに気付きました
ちゅーか彼は何をしてるんでしょうか
きっと車ん中で頭抱えていたと思います
で、エンジン音が遠ざかっていきました
ジーザス
このままアパートへ帰ったら住処がばれてしまう
まずい
とっさに
隣の家に入りました
小さいとき
変な人にあとをつけられたり 追いかけられたら
どこでもいいからその辺のおうちに「ただいまー」て入りなさい
そう教わりました
そうしました
十数年たってあのときの教えが役に立つとは
「ただいまー」
その家は「遠山さん」といって
大工の遠山さんのおうちです
奥からステテコ穿いた遠山の金さんが出てきます
「ただいまー」
「おう どうした」
「いまへんなおっさんたちが絡んできてん」
「なに?」
ってんで
金さんステテコにぞうり引っ掛けて
外へ飛び出していきます
「金さんちの娘さんやったんか いやぁ知らんかったわ
べっぴんさんやな」
ていったかどうかは定かではないですが
金さんの一にらみでおっさんたちは蜘蛛の子を散らすように
解散していきました
「おまえなー 余計なことすんな」
今度はわたしが金さんから目玉です
「まぁ スイカでも食ってけ」
遠山のおばちゃんが(金さんの奥さん)スイカを切ってお盆に乗せて持ってきてくれます
「これ使え」
とぶっきらぼうにステンレスのボウルを渡してきます
そのボウルにスイカの種がカン
カン
と
小さな音を立てて
蚊取り線香の灰が落ちます
網戸からぬるい風が入ってきます
軒の風鈴がちりんと鳴ります
ねこのマッチがあくびをしています
まだうろついとるかもしれん
と隣のアパートの玄関まで送ってくれた金さん
ステテコにぞうり引っ掛けた金さん
こんな町で
こんなふうに
わたしはひとつずつ
夢を拾い集めていったのかもしれません
病院のお話
ならぬ
病院近辺でのお話
その昔、わたくしはよその町で病院勤めをしておりました
(参照→わたくしのお仕事記事Ⅰ、→わたくしのお仕事記事Ⅱ、Xさん←これ1から5まであります)
この病院のあるまちは労働者の町
いつも空は低く
病院横に流れる大きな川は灰色に澱んで
夏になるといつもへんなにおいがして
近くの中学校は荒れて窓ガラスが割れて飛び散り
堤防より町のが低いから雨が降るとすぐ浸水して
駅界隈は風俗店がひしめき
病院が買い取ったアパートの裏は暴力団の事務所で
いつも近所の家からは茶碗の割れる音がしていた
そんな町
わたしが18才から20代半ばまで過ごした町
なぜそんな町へ行ったのか
わかりません
18才
もしかしたら夢も希望もなにも持っていなかったのかもしれません
ただ
働きながら看護婦の免許を取るという
なんだか遠回りなこの作業を
自分ひとりの手でやってみたかったのかもしれません
いっちょ前の大人になりたくて
そんないきがってたあのころ
ある夏の日
当時付き合ってた気の優しい彼に
車でアパートの近くまで送ってもらい
すぐには別れづらく、今日見た映画の話をして
バイバイして車を降りようとドアに手をかけた
そのとき
車の周りを囲まれていました
労働者のおっさんたちに
「こんなとこでいちゃいちゃしてんじゃねーよ」
「ねーちゃん、降りてこいよ 俺たちとあそぼうぜ」
まるで昭和のドラマです
「エンジン音がうるさくて近所めーわくなんだよ」
「おい あんちゃん 降りてこいよ」
そういって車をどづきはじめました
彼は何かを察知し
すぐに車を出そうとしましたが
時すでに遅し
バン
ピストルの音ではありません
車のドアを閉める音
おっさんたちの前に立ちはだかるわたくし
あぁ なんて命知らず
無鉄砲顧みず
ここには書けないような言葉を発したかもしれません
なにせ昭和のドラマですから
でも時代は平成です
おっさんたちが一瞬ひるんだ隙に
わたくしはおっさんたちの間を通り抜け
アパートへ向かいます
おっさんたちが追いかけてきます
やばい
はじめて自分のしたことがとても危険なことに気付きました
ちゅーか彼は何をしてるんでしょうか
きっと車ん中で頭抱えていたと思います
で、エンジン音が遠ざかっていきました
ジーザス
このままアパートへ帰ったら住処がばれてしまう
まずい
とっさに
隣の家に入りました
小さいとき
変な人にあとをつけられたり 追いかけられたら
どこでもいいからその辺のおうちに「ただいまー」て入りなさい
そう教わりました
そうしました
十数年たってあのときの教えが役に立つとは
「ただいまー」
その家は「遠山さん」といって
大工の遠山さんのおうちです
奥からステテコ穿いた遠山の金さんが出てきます
「ただいまー」
「おう どうした」
「いまへんなおっさんたちが絡んできてん」
「なに?」
ってんで
金さんステテコにぞうり引っ掛けて
外へ飛び出していきます
「金さんちの娘さんやったんか いやぁ知らんかったわ
べっぴんさんやな」
ていったかどうかは定かではないですが
金さんの一にらみでおっさんたちは蜘蛛の子を散らすように
解散していきました
「おまえなー 余計なことすんな」
今度はわたしが金さんから目玉です
「まぁ スイカでも食ってけ」
遠山のおばちゃんが(金さんの奥さん)スイカを切ってお盆に乗せて持ってきてくれます
「これ使え」
とぶっきらぼうにステンレスのボウルを渡してきます
そのボウルにスイカの種がカン
カン
と
小さな音を立てて
蚊取り線香の灰が落ちます
網戸からぬるい風が入ってきます
軒の風鈴がちりんと鳴ります
ねこのマッチがあくびをしています
まだうろついとるかもしれん
と隣のアパートの玄関まで送ってくれた金さん
ステテコにぞうり引っ掛けた金さん
こんな町で
こんなふうに
わたしはひとつずつ
夢を拾い集めていったのかもしれません
Posted by 女神ちゃん at
◆2011年02月01日00:06
│看護婦シリーズ
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