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お馬さん 2

いつものように仮眠とって深夜入りです
なんだか少し風邪気味で、身体がだるく横になるとすぐ寝てしまいました

目覚ましで無理矢理起きて教室の掃除道具入れるロッカーの中の牛乳拭いた雑巾みたいになって
ずるずると病院へ向います

病棟へ行くとチワワの鈴がチリチリ鳴ってます

申し送りを受けて、お互いに平和そうですね
と安心してそれぞれラウンドに出かけていきます

蓄尿の計測をしているとお馬さんがやってきます
お馬さんの大部屋はトイレのまん前なのでご迷惑をおかけしてしまいます

「ごめーん 中西さん  起こしちゃった?」

「そんなことないよ おじさんてのは夜中にトイレに起きる悲しい生き物なのよ ごくろうさん」




「おやすみ」

お馬さんが帰っていきます



「・・・・」

入れ替わりで太田さんです
この人もやはり悲しい生き物なのでしょうか




ひととおりチェックもすんだので詰め所へ戻って少し休憩です
チワワとコーヒーを飲みます
チワワとせんべいをかじります
チワワの話を聞きます
チワワ喋りっぱなしです
なんだか身体がだるくてチワワの声が遠くでキャンキャン聞こえます

今日このままなんもなかったら
仮眠先にとらせてもらおうかな


そんなことを思っていたら内線がなりました


「はい、3Cです」
「救急外来、当直婦長です」


あぁ、急患です 入院患者です

わたしのチームは満杯なのでチワワチームに入院です
新患は重症じゃなさそやけど今日のわたしはへろへろです
横になりたいばっかです
入院したいくらいです
なので新患さんを受け入れる余裕がありません
だから相手チームでまだ救われました
けど、これで仮眠はなしです
しゃあない
帰ってから寝るぞ


チワワが新患の受け入れにバタバタしています
当直婦長や当直医がやってきてあれこれ指示を出しています

わたしは点滴チェックしたり、記録したり、チワワチームの他の雑務をしたりします

婦長や当直医が降りていったのでまた病棟が少し静かになります
チワワの鈴だけが向こうの方でチリチリ鳴っています





  

Posted by 女神ちゃん at ◆2011年08月23日23:19看護婦シリーズ

お馬さん

久々に病院の昔話いたしますです

これまでの病院関連のお話→普通のお仕事
普通のお仕事2
Xさん2345
労働者のまち
婦長
酸素ボンベの瀬上さん
瀬上さん 2
瀬上さん 3
瀬上さん 4 最終話
病院シリーズですか
夏向け 病院のハナシ
夏向け 病院のハナシ 2
夏向け 病院のハナシ 3


看護婦であるわたしは20代、よそのそこそこ大きな病院に勤めていました
高校卒業と同時に家を出て、就職と就学二足のわらじをはいていました
看護学生として午前仕事、午後学校、夜仕事 そして時々実習 て感じで
高校でたばっかなのでまだ10代です
最初の所属は外来関係だったので、とにかく患者さんの顔を覚えるのに力を入れてみました
斉藤さん、鈴木さん、前田さん
こういうありふれたおもしろくない名前だとぜんぜん覚える気がいたしません
しかも顔もなんも特徴もなく普通だったりすると、
その人はわたしの中で勝手に脱落していきます

遠山さん、荒巻さん、蟹江さん
こんな名前だとうきうきしてきます

遠山の金さん、新巻鮭、蟹江きん、ぎん

ていうか蟹江妹は病院の患者さんでした
(まじで。ぎんさん直筆の句持ってます。イラスト入り)

名前を覚えるのに苦労はしたくないので(もっと大事なことを覚えなきゃならんのです!!)
強烈な名前、もしくはキャラの人から覚えていきます
しゃれこうべみたいな顔だったらガイコツ、いっつもオロナミンC飲んでたらオロナミンC、
中元(ナカモト)さんだったらお中元、パンチパーマだったらパンチ、で、さらに顔が丸かったらアンパンチ
みたいな感じ
その術を外来で得とくしました
それは今でも役にたっています
(あなたもあだ名つけられているかもしれません ひひひ)

で、それは免許とって病棟いってからもそんな感じで自分の中でだけ
患者さんの愛称をつけてよんでいました

ここまで長かったけど、一応これからのお話の振りのつもりです
今日はお馬さんという中西さんの、あ、逆だった
中西さんというお馬さんのような顔の人のお話です

中西さん、68歳
病名はもうなんだか忘れてしまいました
なぜかこの人の病気のことほとんどていうかぜんぜんてくらい覚えてないんです
ただこの人の顔だけはいやにはっきりと思い出せるのに
肺に水が溜まって、それを機器を使って抜いて、を繰り返してました
あんまり予後の良くない病気だったんじゃないかな と思います

このお馬さん、いつから仲良くなったんかな
なぜかおうちにも遊びに行ったりしてました
その経緯すら覚えてません
だったら書くなよということですか?

でもリクエストあったので
て、自分で書くと言ったんですね
すんません

お馬さんのような顔してて、この中西さんとってもいい人で
どういいのかっていうと
おいしい蟹が届いたといってはおうちに呼んでくれたり、
おいしいさくらんぼが届いたといっては持ってきてくれたり、
つまりそういう人です

愚痴や酒にも付き合ってくれます

ここまで書いてきて疑問や誤解を解かなければいけないような気になってきました
彼氏ではありません
そういう利害関係だけの間柄でもありません
だってお馬さんだもの

近所のおっちゃん
ていうか親戚のおっちゃん て感じかな


なんかね、地域全体がそんな感じの町なんです
病院の裏には大きい川が流れていていっつもドブくさくて
川の向こうは工場がだーっと並んでいて
煙突がいっぱいあって その先からはもくもくと黒い煙がいつも上がっていて
とうぜん公害喘息の町で
病院前の中学校は荒れてて窓ガラスがいつも割れてて
駅の周りは風俗店がひしめいて
ヤクザが幅をきかせてる
でもそんな労働者の町で、そこに住んでる人々はとってもおもしろくたくましく
あったかくてやさしい
人の痛みを自分の痛みのように感じる人たち

そんな町のおっちゃん
お馬さん


ある日、呼吸器病棟の大部屋、お馬さんのいる大部屋にベット調整のため整形の患者さんが移ってきました
名前を太田さんとしましょう
ベット調整のためなので、3、4日でまた整形に戻るらしく、しかもチームも違うので
ほとんど関わりなく過ぎていくはずでした

お馬さんは病状も落ち着き、経過観察してあと2、3日で退院かな というときでした

「退院したらお祝いにカラオケ行くか」

そんな話を同期のKちゃんとお馬さんと3人でやっていたところ
ナースコールです

「どうされましたか?」

「お願いします」

「いま伺いまーす」

整形の太田さんです
訪室すると、ベットの上に薬を並べています

「どれを昼飯のあとに飲むのかわからんようになった」



詰め所へ戻りカルテを見てみます
太田さん、68歳
お馬さんと同じ年か
なんか太田さんの方が老けてるな
ていうかなんか謎の人やな
職業は大工 とあります

それであんなに真っ黒なんか
なぜか病室のなかでもサングラスをかけています
でも目が悪いわけではなさそうです
頭にはタオルをねじ巻いてド派手なTシャツを着ています

変な人

でもどうせ3、4日で移っていくんだからあだ名をつけるほどでもありません


病室へ戻り薬の説明をします

「これとこれがお昼、この3つが朝食後です」

「・・・」


聞いてるのか聞いてないのかそわそわしてて落ち着きません


「またわからなくなったら聞いてくださいね」



変な人



詰め所に戻って相手チームの主任さんに一応報告しておきます
この相手チームの主任さんは当時流行ったソバージュヘアで、胸のポッケに小さな鈴をつけていて、
どこにいてもチリチリ鳴ってすぐわかるし、何しろ高い声でキャンキャンと話す人なので
チワワ と名づけてました
今夜はこのチワワと深夜入りです





  

Posted by 女神ちゃん at ◆2011年08月23日22:36看護婦シリーズ

夏向け 病院のハナシ 3 最終話

「牧野さん、お薬持って来ました」



「・・・・」


「これ飲んで少し休んでください ね?」



楽のみで薬を飲ませます

牧野さん、窓の方を向いています


毎晩奥さん大変だろうな
この人もデリケートな人なんだろうな
牧師さんて大変な仕事やったろうな
キリスト教とは無縁だけど、いろんな人の相談受けたり悩みを打ち明けられたりしてきたのかな
身体が思うように動かなくなって辛いだろうな・・・



牧野さん顔だけ窓の方向いて、こちらからははっきり顔が見えません
ここは3階
カーテン越しに月明かりがぼうっと照らす後姿はなんだか寂しげです

わたし一人でぎゃーぎゃー言ってごめんなさい 牧野さん



「看護婦さん」

「なんですか?」



「窓を開けてくれんか」


「え?暑いですか?」






「あの子を入れてやってくれんか」


「へ?」


窓を凝視する牧野さん






「カーテン開けてくれ」



「やです!!」





「窓のそとに女の子がおって かわいそうにずっとこっち見とる
入れてやってくれんか」








終わり★








  

Posted by 女神ちゃん at ◆2011年07月28日22:16看護婦シリーズ

夏向け 病院のハナシ 2

さて

なにからすっかな



とりあえずカルテ整理です
深夜帯の記録書けることは全部書いちゃいます
蓄尿の計測をしたり、翌朝の採血の準備だったり
いくら平和でも なんだかんだ やることないわーヒマだわー なんてことはありません

トイレで蓄尿便を洗っていると患者さんがトイレに起きてきてバッタリ遭遇します

「たんぽぽちゃんか 深夜は  ごくろうさん」

中西さんが声をかけてくださいます

このおじさんは顔が長くてでかくて馬のようなので
わたしの中では
お馬さん
と呼ばれています

お馬さんは肺に水がたまっては引き、たまっては引き
と入退院を繰り返しています
もう常連なのでとっても仲良しです
いつかこのお馬さんの話書きます



蓄尿便を洗い終わり詰め所へ戻ります

2時のラウンドです
患者さんに変わりがないかチェックして見回ります

懐中電気を持って大部屋から

Bチームのなべさんが仮眠中なのでBチームもわたしが回ります


303、304、305、306 大部屋異常なし

2人部屋も異常なし



308


(牧野さん)


308号室は牧野さんです


ビートルジュースやったな  まじで



懐中電気を床に向けて入室します


(小声で)「失礼します」



静かな寝息が聞こえてきます

布団がずり落ちていないか と懐中電気をベット上に照らしたその瞬間


「わっ 」

牧野さん目見開いて天井凝視してました



「どうしたんですか?寝れませんか?」

枕が替わったから寝れないのかしら

そう思って牧野さんに話しかけてみます




「あそこの天井の隅からおばあさんがぶらさがっとる」


「へ?」




どびっくりして牧野さんのベットの枕灯を慌しく点けます


「牧野さん そんなまた  やめてくださいよ~」



「逆さまになって こっち見とる」


「ぎゃーもうやめてください  そんなん見えませんからいませんから!はい おやすみなさい!」



なんちゅう患者じゃ
看護婦からかいよって
悪いやつやなー!


心臓バクバクさせながら詰め所へ戻ります


詰め所の中はピ ピ ピ というモニターの音だけが響き
他にはなんにも音がありません

わたしの歩く音だけです


座ってみます
病棟の申し送りノートを開いてみます
「10月の勤務表、希望ある人は早めに」
「カレー大会のお知らせ」
「募金のお知らせ」
なんかあんまりのってきません
カラオケなんか行かんと仮眠しときゃよかった
なんか気持ちがざわざわする!
ん~落ち着かん
静かすぎる










「ピンポーン ピンポーン」

びくーっ!!

ナースコールです


心臓バクバク


(308・・・・牧野さん)




夜なので
「どうされましたか~?」

とかなしに訪室します


懐中電気握り締めて 小声で

「牧野さん、どうされましたか?」



「足が痛い」


「大丈夫ですか?こっちの足ですか?」

と、残ってるほうの足をさすろうとすると


「こっち」


ない方の足を指差します


(幻肢痛か)

*幻肢痛とは、怪我や病気によって四肢を切断した患者の多くが体験する、難治性の疼痛。あるはずもない手や足が痛む症状。例えば足を切断したにも関わらず、つま先に痛みを感じるといった状態を指す。




「足がそこに落ちとる。拾ってくれ」

「へ?」



「おれの足 さっきゴトンて落ちた 拾ってくれ  くっつけてくれ」









ひー!!

慌てて病室の電気点けます


「いいですか 牧野さん! 牧野さんの左足は4年前に切断したんです。だからそこには落ちてません。
痛みは錯覚です。眠れないのならなにか眠剤もらってきましょうか」


慌てて詰め所へ飛んでいきます

牧野さんはBチームの患者さんなのでなべさんに報告しようと思って一応カルテを見たら

「幻肢痛のとき 頓服」
とあります

安定剤でした

なんじゃこれ飲ませたるか

一応なべさんを起こして確認してみます


「あ、たんぽぽちゃん わたし行くからいいよ」

眠そうに目をこすりながらなべさんが言います

「これ飲んでもらえばいいんでしょ?いいですよわたし行きます。休んでてください」


かわいいなべさん わたしが守らなければ!
だってなべさんはこうさぎなんですもの!!




再び308号室突入です


  

Posted by 女神ちゃん at ◆2011年07月28日22:15看護婦シリーズ

夏向け 病院のハナシ

さぁさみなさま
夏ですから そんなお話いってみましょう

わたしは看護婦です
20代によその病院でお仕事してたときの話、時効になった話を綴ります

これまでの病院関連のお話→普通のお仕事
普通のお仕事2
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酸素ボンベの瀬上さん
瀬上さん 2
瀬上さん 3
瀬上さん 4 最終話
病院シリーズですか

わたしのいた病院ですが病棟勤務は日勤、準夜、深夜という交代勤務で成り立っています
病棟の患者さんもAチーム、Bチームに分かれて担当します
呼吸器病棟でしたが、ベットの調整等で循環器や整形などの患者さんも入ってきます

時期は9月頃でしょうか
日もだんだん短くなり始め、少し寂しさ漂う季節のある日、
日勤帯で相手チームのBチームに糖尿病の牧師さんが入院してきました
牧野さん、64歳 
何年か前に糖尿病の悪化による壊死で片足を切断しているとのこと
その日深夜入りを控えていたわたしは、一応Bチームの患者さんの顔も見とかなきゃ
と、日勤の終わりがけに牧野さんの病室を訪室することにしました

コンコン

牧野さんは個室です

「失礼します」


ベットの上、白いシーツ、病室全体に夕陽が差し込んでいます

「牧野さん、失礼します」

と牧野さんを見たとたん


ビートルジュースのマイケルキートンかと思いました
メイクはしてないですよ
入院中ですもの
ていうか牧師さんですから


布団の襟元を鼻まで引っ張り上げ両の手でしっかと掴み
目だけがぎょろっとこちらを見てる

髪の毛もまさにビートルジュースのあんな感じ
白くて立ってる


(うわぁ ホラーや)

「寒くないですか?」

「・・・・・」


目だけこっち見てるし



「何かあったらこのボタン押してくださいね」

とナースコールを確認して病室を出ました


(ほんとに牧師さん???)




牧野さんは片足を切断してから精神的にも弱り、奥さんの介護が必要になっており、
今回は病気の悪化というより、奥さんがご両親の看病に田舎に帰郷するので
2~3週間の社会的入院ということで入ってこられたようでした


またおもしろそうなのが入ってきたなー
うちのチームも落ち着いてるし、Bチームも大丈夫そうだな

今夜はなべさんと深夜
なべさんは一年先輩のとってもキュートな看護婦さんです
色も白くうさぎさんのようなかわいらしい人です


日勤の帰りにコンビニでプリンなど買いこんで深夜入りに備えます
ささっと夕飯をすませ、シャワーして仮眠します

同期のKちゃんがカラオケ行くぞと誘ってきます
Fくんも歌うぞ、飲むぞ!と誘ってきます

けど、深夜入りです
飲めません
でも、歌えます
カラオケ行きました
でも酒は我慢しました
我慢はよくないです
でも酒臭ぷんぷんで仕事するわけにもいかんので我慢します


で、結局仮眠なしで深夜入りです
プリンは忘れず持っていきます
かわいいなべさんの分も


まぁ今日は落ち着いてるし、余裕で仮眠できるやろ

のんきに自転車こいで病院へ向います



「おはようございまーす」

準夜勤の看護婦さんから申し送りがあります
それが終わると翌日の点滴のチェック、ラウンドです


「落ち着いてるみたいですね」

「ん 平和そう」

となべさんが応えます


重症患者さんもいないしそれぞれにちゃちゃっとラウンドして
まずは一服
んで、お茶
先に休憩しておきます
休めるときに休んでおかないといつ急患が入るかわかりませんから


「おいしそうなプリン買ってきました。食べます?」

「食べる食べる~」

なべさんはほんとに手足も華奢で白くてこうさぎのような人です

こういう女性を世の男性は 守ってあげたい! とか思うんだろうなぁ


などとコーヒーを淹れてくれるなべさんを見ながら思います



プリン食べてひとしきりおしゃべりしたあと、交替で仮眠をとることにしました
じゃんけんで負けたのでなべさんが先に休みます


「おやすみなさーい」


ソファにごろっと横になりなべさんオヤスミタイムです




  

Posted by 女神ちゃん at ◆2011年07月28日22:10看護婦シリーズ

病院シリーズですか

ひさびさに仕事ネタいってみます

これまでのお話→普通のお仕事
普通のお仕事2
Xさん2345
労働者のまち
婦長
酸素ボンベの瀬上さん
瀬上さん 2
瀬上さん 3
瀬上さん 4 最終話



20代、わたしはよそのそこそこ大きな病院でお仕事してました
高校卒業してから都(?)へ出て、働きながら資格を取るために午前中は病院、午後は学校、実習、また夜は病院 
合間にレポートに追われ、家には寝るだけに帰っていたような生活でした
といっても当時はバブル最盛期
クラスメート達は寝る時間を惜しみ、前髪をくるんくるんに巻き上げ、ぼでこん着て羽根のセンス持ってお立ち台でヒューヒューやってたようです
わたしは幼い頃からそういう表舞台に立つ人間じゃなかったので
地味にライブに通ったり、家でじーっとヘッドホンで大好きな音楽聞いたり、自転車で川へ行ってぼーとしたり、友だちのいる居酒屋行ったり、ときどき仲間で海いって遊んだり ってやってました

そんな地味で老けたわたしですので、病院の患者さんのおじさんおばさん、おじいさんおばあさんには受けが大変良かったです
夕方学校から直で病院へ入るため、途中のコンビニでパンとジュースを買ってロッカーで着替えながらパンをかじります
パンが買えればいいけれど、バスが遅れたりするとそのまま仕事に入って夜10時過ぎまで食べ物お預けです

その病院は看護学生は特別に白衣がピンクでした
今思えばいやらしいですね
いやらしい病院
病院側は看護学生に何を期待していたんでしょうか
期待に応えられなくてすいません

なので、患者さんや看護婦さんからはまとめて
「ピンクちゃん」
と呼ばれてました
いったいどういう期待をされてたんでしょうか
でもことごとく期待を裏切りすいません

で、入ってしばらくは他の学生同様、ピンクちゃんと呼ばれていたわたしですが
最初に配属された外来である患者さんに出会います

その人は篠原さんといって当時50代くらいだったかなぁ
ケンケンをのんびりさせたような感じの人で、とても穏やかでおっとりしててゆっくり喋るやさしいおじさんでした

ケンケンと呼ぶにはなんか違うし、まぁ篠原さんと呼べばいいんですけど
わたしは自分の中であだ名をつけて人を覚える癖があるので
篠原さんを熊さん、と名づけました

さて熊さんですが、彼は肝臓が悪いので仕事帰りに点滴に通います
いつも汚れた作業着に首から手ぬぐいをかけて、時にはねじりはちまきのままやってきます


「ただいま~」
と処置室に入ってきます
いつもとってもだるそうで、ボロ雑巾のようにくちゃくちゃに見えます

点滴のベットにバタンと倒れこみます
ベテランの看護婦の佐藤さんが世間話をしながら上手に点滴します
しばらくすると熊さんはいびきをかいて寝てしまいます

佐藤さんは当時40代くらいでしょうか
ハスキーな声で宝塚の男役のような顔つき、髪を後ろに一つ束ね、うすい唇に真っ赤な口紅をひき、
きびきびと仕事します 
ひじょうにあっさりとした人で、ときどき大口を開けて豪快に笑います



わたしは総合処置室で勤務でしたが学生のわたしができる仕事は限られています
もちろん点滴を射すことはできないですが抜針はさせてもらってました
他には受付業務、薬液や医療材料の補充、医療機器の掃除や管理など
て、こやって書くといっぱしな感じですがほんとに雑用でした


いつもように熊さんがいびきをたてはじめます
熊さんのぽっこりしたお腹がゆっくり上下に揺れています

そーっと近寄って毛布をお腹までかけてあげます


熊さんが来る時間帯はたいてい空いている時間なので、いびきかき放題でも文句を言う人はあまりいません
たまに迷惑そうな顔して熊さんのほうを見る人がいるので、そういうときはそっと近寄って熊さんをつっつきます
起きないけどいびきは一瞬止まります
それがおもしろく、用もないのにつっついたりしてはしていました

そんな熊さんはいつも爆睡してしまうので点滴が終わっても気付かず寝ています



「熊さん、点滴終わりましたよ」

あるとき心の中でだけ呼んでいた愛称で篠原さんを呼んでしまいました

ぽかんとしている熊さん

「わ、すいません!」

謝るわたし


「ははっはー」

熊さんは大声で笑いだしました


「そうか、熊さんか。うちのかみさんもおれのこと熊さんて呼ぶんだよ。そっか熊さんか」


「すんません」


「じゃぁ、あなたの名前はなんていうの?ピンクちゃん。」


「たんぼです」


「・・・・・じゃぁ、たんぽぽちゃんだ」



こうしてわたしのあだ名は決定したのでした
それからも熊さんは仕事帰りにくちゃくちゃになってやってきて、
相変わらず豪快にいびきをかいて一寝入りしたあと、だまってパンとパックの牛乳を差し出すのでした

それを黙ってみているベテラン看護婦の佐藤さんが

「カルテ庫いっといで」

と言ってくれます

パンと牛乳持って処置室の隣のカルテ庫でむしゃむしゃ

同期入社の事務のFくんがネクタイ締めて仕事しています

「わ またさぼりか」

「うるさい  腹減って仕事ならん」



牛乳で流し込んでまた処置室へ

「たんぽぽちゃん、これお願い!」

佐藤さんが張りのある声で呼んでくれます






熊さんはたぶん 看護の道に足を踏み入れて一番最初に仲良くなった患者さんでした

佐藤さんははじめてかっちょいいー!としびれた看護婦さんです


わたしはそんな人たちに囲まれて看護婦の勉強だけでなく、いろんな経験させてもらいました

ほんとにいい病院だったなーとつくづく思います


看護学生の白衣がなぜピンクでなくてはならなかったのは今となっては不明ですが、
当時期待に応えられなかった分、こうして今世間様に恩返しをさせていただいてるつもりです

なんてうそです
うそいいました


ずーっと期待はずれの人ですんません


でも

ずーっと看護婦やってます


辞めてもやっぱり看護婦やってます







  

Posted by 女神ちゃん at ◆2011年07月27日21:55看護婦シリーズ

酸素ボンベの瀬上さん 4 最終話

公園の木の葉が全部落ちてしまって瀬上さんの入院も数ヶ月を過ぎ、ぼちぼち退院かなぁと思っていた頃
瀬上さんが熱を出しました
気管を切開されているのでどうしても感染をおこしやすく、すぐ熱を出します
これの繰り返しです
今回もそんな感じでまたすぐ落ち着くだろうとみんな思ってました

でも熱はなかなかひかず、ついに肺炎を起こしてしまいました

痰の量が増えます

「吸引してくれんか」

今は自分で痰を取る力がないのはわかっていても、憎まれ口たたく瀬上さんのほうがなんていうのかファイトがあります かかってこいです

瀬上さんは個室に移りました
奥さんが毎日通います
看護婦にも無駄なことは喋らず帰られるときも黙って帰られるか、ただ頭を下げてそっと帰られます

瀬上さんの容態はいっこうに良くならず、瀬上さんに呼吸器が装着されました

といっても今までも何度もそういう危ない橋を渡ってきた瀬上さんなので、今回も一時しのぎだろうと思っていました

呼吸器と自発呼吸が同調しなく、しんどそうな瀬上さん
酸素の換気も悪化の一方

なんとなく悪い方向に考えてしまう自分
いやいや、瀬上さんはそんな人じゃない
簡単には逝かんやろ だってあの瀬上さんやもん 不死鳥瀬上さんやもんな 
かかってこい瀬上さん Fight!



その日、私は深夜勤をひかえてました
日勤の深夜入り
日中勤務して、夕方帰り再び深夜から勤務する形態をいいます
日勤帯から瀬上さんの容態は不安定でした

帰宅した私は深夜に備えてささっと夕食をすませ、シャワーを浴び仮眠します

布団に横になるとすぐ眠りにおちました
不思議なもんで、すぐ寝れる日と、まったく寝付けない日があります
この日はかんたんにすとんと眠りに落ちました



ふと 目を覚ましました

誰かがいます

「ん?」



「瀬上さん」

瀬上さんが酸素ボンベ押して立っていました

「どうしたんですか??」

「たんぽぽちゃん、看護婦やめちゃいかんよ。お父さんお母さんを大事にするんだよ」

そういって瀬上さんは今までに見たことない優しい笑顔で振り返って帰っていきました




「・・・瀬上さん?」

枕元の目覚まし時計をみたら夜の11時23分でした

(あぁ、ちょっと早いけど病院行こうっと)


(夢?? いやいや、おったよな うち来たよな 瀬上さん  足あったよな)

なんて頸かしげながら、自転車こいでいつもよりかなり早い目に出勤しました


「おはようございます」

病棟へ入っていくと北さんがいました
北さんは瀬上さんの主治医です

「たんぽぽちゃん(深夜)入り? 早いな、今日は」


当直の婦長もいます



「瀬上さんは?」

「ちょっと前、23時23分だったよ」

北さんが答えました


 
瀬上さん・・・


呆然としていると瀬上さんの奥さんがやってきました


「皆さんには本当にお世話になりました」

毅然と取り乱すことなく挨拶されます



「看護婦さん、ちょっと」


わたし??


奥さんが手招きします


「奥さん、なんていったらいいのか・・・その・・・」

「たんぽぽさんていう看護婦さんはあなたよね?」

「?  はい、そうですけど・・」

「主人がいつも言ってました。あの子はいい看護婦になるぞ。あいつは何を言ってもめげん。あの子はいい看護婦になるぞ、って。うちの主人、あんなですからさぞかしあなたにも意地悪したんじゃないかと思って。ほんとにごめんなさいね」

「・・・奥さん、すみません。わたし・・・」

「いいんですよ。あんな言い方しか出来ない主人をゆるしてね」

そのあとは泣き崩れてしまってどっちが遺族だかわかりませんでした




瀬上さんは、とっても不器用な方だったんだなぁて思います

そういうわたしも



でも今でもあのとき枕元に立った瀬上さんのあのさいこーに優しい顔は忘れません


瀬上さん、ありがとう


わたしは今でも看護婦、やっています




おわり


  

Posted by 女神ちゃん at ◆2011年03月22日13:47看護婦シリーズ

酸素ボンベの瀬上さん 3

夏が過ぎ、いつの間にか秋を迎え過ぎようとしていました

盆踊りで賑わった前の公園は紅葉も終わり、子ども達がどんぐりを拾っています


その日、日勤でひととおり仕事を終えたわたしは、病棟も落ち着いていたので残りの時間をどうやってつぶそうか、誰かを誘って公園でも散歩に行こうかな
と考えていました 
一人ではいかにもサボり丸出しなのでKちゃんを誘いました
Kちゃんは認知症もはいっている上野さんを車椅子に乗っけてやってきました

(誰にしよっかな~、森さんは明日検査やし説明あるし、田本さんは点滴中やしなー)

お気に入りの患者さんはみんな入用です

「看護婦さん、消毒薬くれ」

(瀬上さん・・・)

「瀬上さん、散歩行きませんか?」


Kちゃんが目をでかくしてこちらを振り向きました

(なんで瀬上さん??)

Kちゃんの目はそういってました

私自身もなんで瀬上さんなんかわかりませんでした

ただそこに瀬上さんがいたから
というにはあまりにもナンセンスな選択でした

(サボれんやん)

というKちゃんの痛い視線を感じながら無言でエレベーターを降ります


Kちゃんは上野さんの車椅子をさっさと押してわたしたちから離れていきました

瀬上さんは酸素ボンベを押しています
歩行もひじょうにゆっくりです

でも秋を迎えたこの公園に、瀬上さんのこのゆっくりとした歩きがとってもあってるような
なんだか自分も瀬上さんにあわせてるんじゃなく、ちょうど私自身の歩く早さもゆっくりになっていたようなそんな感じでした

ベンチに腰を下ろします

「寒くないですか?」

「・・・」

(え?無反応??)




「・・・うちはなぁ、息子がおるんや」

「はぁ」

「もう長いこと顔を見てない。東京へ学校に行くっていって、それからもうずっと」


瀬上さんはそのあとただ子ども達がどんぐり拾うのを黙ってみていました




「秋やなぁ」

瀬上さんが言いました


「秋ですね」

私も言いました




  

Posted by 女神ちゃん at ◆2011年03月22日13:23看護婦シリーズ

酸素ボンベの瀬上さん 2

病院では毎年夏祭りがありました
病院の前の公園で屋台を組んで盆踊りです
病院職員がたこ焼き、焼きそば、とうもろこし、ヨーヨー、綿アメ、イカ焼きなどの一日テキ屋をやります
この日だけは職員も患者も地域の人もみんなでお祭りワッショイです
患者さんは入院中のそのままの浴衣姿で盆踊り
職員も勤務中でないひとは浴衣着たりで盆踊り

わたしはこの日は準夜勤でした
ナースステーションからみえる屋台の提灯に灯りが燈ります
看護婦としては先輩なんだけど同期のKちゃんが、浴衣に襷がけでとうもろこしを焼いているのが見えます
病院長が甚平を着て盆踊りの輪の中で踊っています
当直の北さん(医師)が白衣のままでたこ焼きをほおばっています
山さん(これも医師)がイカ焼きを手伝ってます

「いいなぁ・・・」


「看護婦さん、消毒薬換えて」

瀬上さん登場です

(ぼやーと見てたんをまた言われる)


「ごくろうさま~。今日はどう?落ち着いてる?」

今度は病棟婦長登場です
今夜はこの病棟婦長の百合ちゃんが当直なのでラッキーです

「たんぽぽちゃん、行っておいでよ。ラウンドすんだんでしょ?30分だけだよ。早く」

「いいんですか?」

「瀬上さん!行きますよ!」

なんとなく一人では(白衣やし)バツが悪いので瀬上さんをだしにお祭り見学です

「あ?あぁ」

瀬上さんののんびり歩きで20分、行って帰ってくるだけかも
それでもいいや 公然とサボれる

病院の外に出ます
川からぬるい風が上がってきます
炭坑節に乗ってとうもろこしだのイカ焼きだの匂いがごちゃ混ぜになって飛んできます

コガネムシが外灯にあたってカツンカツンといってます

子ども達が栗の木にくっついたカブトムシを捕っています



「祭りやなぁ」

瀬上さんが言います

「祭りですねぇ」

わたしも答えます


「あ、お金持ってこんかった。なんも買えん。瀬上さんごめん。なんもおごれんわー」

「あんたにおごってもらおうなんておもっとらん」


(そうですか そうですか)

いいもんね こうやって患者さんといたらサボってるようには見えんし
あー Fくん生売っとる~!
Eちゃん酔ってるな あれ
わたしも飲みてー

なんて見てたら同期のKちゃんがねじりはちまきで立っていました

「なにさぼっとんねん」

「仕事です」

瀬上さんの腕をとる私

「とうもろこし食わしたる。待っとって」

そういってKちゃんは2本のでっかいとうもろこしを持ってきました

「今日くらいなんもないやろ(急変)。楽しんでいき」

瀬上さんとわたし
とうもろこし2本
しょうゆの焦げた香ばしい匂いが二人の距離を近くしたような気がしました(恋人同士じゃないで)


「すんませんでした~」

病棟へ戻ると、百合ちゃんが山さんとイカ焼きをほおばっていたところでした


  

Posted by 女神ちゃん at ◆2011年03月22日02:33看護婦シリーズ

酸素ボンベの瀬上さん

お仕事の話 いってみたいと思います
 
わたしは看護婦の仕事をしてます
もう時効かな て話をぽつりぽつりと書きましょう
つまり実話です(細かいところは多少脚色させていただいてます)

参照
普通のお仕事
普通のお仕事2
Xさん2345
労働者のまち
婦長

その頃まだ20代前半、免許とって1、2年でしょうか
とある総合病院の呼吸器内科に勤めていたわたしは、ひとりの患者さんに出会います

瀬上さん(仮) 50代中頃
奥さんと二人暮らし 子供さんはいるんだけど独立されてて一緒には暮らしてません
瀬上さんは肺線維症(肺組織が長期にわたって傷害され、線維化してしまう状態。肺が硬くなって縮小するため、ガス交換が不十分になって息切れするようになり、咳や呼吸困難やチアノーゼ(酸素不足により、皮膚の色が青紫色になる状態)がみられるようになります。)を患っており、24時間酸素吸入をしていて何度も入退院を繰り返しています

家では室内の空気から酸素を濃縮して送り出す濃縮機、歩行時は酸素ボンベや液体酸素などを使います
つまり24時間、ずーっと酸素カテーテルをつけてるんです
トイレもお風呂も夜寝るときも

瀬上さんは、わたしが看護学校で勉強してるもうずっと前からこの病気と付き合っています
だから大ベテランです
知識も経験もはるかに大ベテランです

そんな瀬上さんがまた入院してきました


大部屋に検温に行きます
「おはようございます!」
なるべく明るく、けど耳障りにならないように入室します
同室の比較的元気(?)な方は挨拶してくれます

「・・・」
(今日は瀬上さんご機嫌ナナメか)

気合を入れなおし検温開始です

「瀬上さん、具合はどうですか?」

「・・・具合悪いからここにおるんやろう」


こんな感じの受け答え  機嫌悪いときはたいていいつもこんな感じ

「抗生剤点滴はじめてもう三日たつのに熱が下がりきらん。効いてないんじゃないか?先生にちゃんと確認しているのか?」

「気切のガーゼ交換してくれ」
「痰を取ってくれ」

この辺のことは瀬上さんはご自分でできます
でもわたしにやらせます
そしてあれこれケチをつけるのです


瀬上さんは何度も呼吸器をつけています
そのため気管切開もしており、話すときは気管に開けた穴を指で塞いで声を出します
痰の吸引も鏡を見て自分でします

この瀬上さん、何かと細かくて看護婦にもいろいろ指示したり命令したりするのではっきり言って病棟の嫌われ者でした
私なんかは夜勤のときに患者とトランプやってたのを婦長にちくられて目玉くらったりしました


大部屋を出てはぁーとため息をついていると

「看護婦さんもたいへんやな」

と声をかけてくれる患者さんもいます
というか患者さんに気を遣われています


瀬上さんの奥さんは物静かで、けど頼りない線の細い女性という感じではなく、余計なことは喋らずもくもくと働き、立場をわきまえた女性という感じでした 
はっきり言って瀬上さんとご夫婦には見えません
でも知らないうちに病院へやってきて、ちゃんと夫の身の回りのことはしていく 
なんていうのか影のような人でした

あるとき瀬上さんの部屋を訪室すると、奥さんがりんごの皮を剥いていました
瀬上さんのご機嫌もよく

「たんぽぽちゃん、りんご食うか?」

などと声をかけられました

でもあの瀬上さんです
なんかあるに違いない
あとで婦長にちくるとか

「だいじょうぶよ。おいしいですよ。食べない?」
奥さんの優しい声に警戒心がほどけりんごをいただきます



  

Posted by 女神ちゃん at ◆2011年03月22日02:26看護婦シリーズ

婦長

お仕事シリーズ 好評いただいております

(参照→わたくしのお仕事記事Ⅰ、→わたくしのお仕事記事ⅡXさん←これ1から5まであります。労働者のまち



人の人生ですのでネタはたくさんあるんです
が、時効になったものからでないと面倒なことになりかねないのでそんなしょっちゅう書けないんであります
人の記憶が忘れ去られるということは、わたくしの記憶も同じように薄らいでいくのでありまして、遠い遠い過去の記憶の引き出しを思いついたときに開けてみる という作業をしています
いえ そんな遠いはずはないんだけど・・・ものすごく遠い気もします

わたしはとある労働者の町に住んでいました
近くの川の向かいは工場がひしめき、煙突からはいつも灰色の煙がもくもく 
空は低く重い雲に覆われているようなそんな町でした
そんな町の病院 一応総合病院ですが町医者のような存在だったような気がします
余談ですが、今はとっても立派な病院になってしまったようで時々ニュースなどの特集で取り上げられたりしています
わたしはもう何年も行っていないので無責任な発言かとも思いますが、いい意味で立派な病院になったんだと思っています  喜ばしいことです

わたしは早く自立したかったので、学費を親に負担させるなどという甘えたやつは一生おしゃぶりくわえてな という感じで病院の奨学金を借りて働きながら看護学校に通いました
同期に何人か同じような境遇の子がいたのですが、集団生活の苦手なわたしはどうにもなじめず
いつも単独行動ばかりでした
もちろん看護学校でもそうで、なにかと連れ立ちたがる女子集団にやはりなじめず、レポートもちゃんと提出するし、テストの点も決して悪くはないのに、なぜか先生に目をつけられる生徒でした
そのくせやたら正義感が強く、実習でいじめられてる同級生をみると、先生や実習先の看護婦であろうとたてついたりしていました
正義感て なんだろう
今となっては謎は深まるばかりです


さて

わたしのいたその病院は縦社会が当たり前の病院と違い、完全な横社会の病院でした

なので婦長さんを婦長さんとは呼びません

「〇〇さん」
新人ナースも「〇〇さん」
ひどい人は婦長を「〇〇ちゃん」
これわたしです
ひどい人です
総婦長でも「〇〇ちゃん」
しかも下の名前で
「みよちゃん」「さっちゃん」みたいな
ものには限度というものがあります
今から考えてもそうとう生意気なやつだったに違いありません
しかもど新人どころか、学生だったりして

若いということはオソロシイ







あるとき近くのダイエーかなんかのスーパーで買い物をして買い物袋提げて自転車置き場へ戻ると
隣の自転車の鍵をガチャガチャやってるおばちゃんが


「あ よーちゃん」

「あら たんぽぽちゃん」

副総婦長でした
 

夕飯は?まだなの?一緒にどう??

たたみかけるように夕飯に誘われ、近くのうなぎやさんへ


「今日は土用だからね」

と松を二つ

「今日はお肉が安かったのよ~。このお茶の葉はここにしか置いてないのよね。美容院予約しようと思ったらお休みで。」

ずーっとしゃべってます

その間わたしはずーっと食べてます

時々顔をあげてにっこりうなずきます

よーちゃんは独身です

よーちゃんと同じ年くらいの人はもう成人するくらいの子どもさんがいてる、そんな年の方でした


肝のすましは飲めませんでしたが、よーちゃんは全部飲み干しました


さんざしゃべり倒して、さぁ開放か と思ったら

今度はおいしい紅茶の葉を買ったから飲みにきて と誘われ

今度はよーちゃんちです


二人で自転車を押します

ずーっとよーちゃんはしゃべってます

よーちゃんはちっちゃくてかわいいです

よーちゃんが転んで足を擦りむいたら、わたしがおんぶして帰れそうです


ちいちゃいよーちゃんのお家は門から玄関まで敷石が敷き詰められた大きなお屋敷でした
よーちゃんはそのお屋敷に一人で住んでいます

いくつもの部屋を素通りして応接間へ通されました


座ったらぼこんと沈んでしまいひっくり返りそうなソファに腰掛けます

よーちゃんが紅茶を入れてくれてます


「ブランデー入れるとおいしいのよ」


よーちゃんはちっちゃな手で ティースプーンの上の角砂糖にブランデーを垂らすと
マッチで火をつけました

ティースプーンの上の角砂糖が青く炎を揺らします

マッチの火を落とした匂いが漂い ブランデーの果実のような香が部屋を包みます


応接間の少し明かりを控えめにした照明の中で 角砂糖の揺れる火を見ていた時間なんて
あっという間の時間だったのでしょうが、ひどく長く感じました

大人ってのはなんでこんな面倒なことするんやろう




ブランデーの香りのする紅茶をいただいて
よーちゃんのたわいもない話を聴いてるうちに
眠くなってきました

わたしがよほど眠そうだったのか、しゃべりあきたのか

「あら もうこんな時間ね」

と玄関まで送ってくれました


お土産に渡されたブランデーの入った手提げを自転車のハンドルにぶら下げます


「ごちそうさまでした  ありがとうございました」


おおきな玄関の端にちょこんと立ってわたしを見送るよーちゃんは、いつもよりもっと小さく見えました



こんな感じで三人いた副総婦長(代が変わったりして)の全員のお宅にかわるがわる呼ばれてました

当時のわたしは おいしいもの食べさせてもらってお話の相手してる くらいに思っていたんですが、
今思い返すと あれは面接、懇談 動向調査だったのかもしれません

目を光らせて観察されていたんだと



でもわたし あの時勤めてたあの病院がなかったら

今のわたしはないんだろな て思います

今はもう婦長たちもおばあちゃんになってしまって引退しちゃってるだろうけど

また角砂糖にブランデーに垂らして紅茶ごちそうしてほしいなぁ
自転車のハンドルに買い物袋ぶら下げて 並んで歩きたいなぁ

わたしも人のお母さんになっちゃったけど


よーちゃんが転んで足を擦りむいたら わたしがおんぶして帰るからさ





  

Posted by 女神ちゃん at ◆2011年02月23日15:03看護婦シリーズ

労働者のまち

さて、今日は

病院のお話
ならぬ
病院近辺でのお話

その昔、わたくしはよその町で病院勤めをしておりました
(参照→わたくしのお仕事記事Ⅰ、→わたくしのお仕事記事ⅡXさん←これ1から5まであります)

この病院のあるまちは労働者の町
いつも空は低く
病院横に流れる大きな川は灰色に澱んで
夏になるといつもへんなにおいがして
近くの中学校は荒れて窓ガラスが割れて飛び散り
堤防より町のが低いから雨が降るとすぐ浸水して
駅界隈は風俗店がひしめき
病院が買い取ったアパートの裏は暴力団の事務所で
いつも近所の家からは茶碗の割れる音がしていた


そんな町

わたしが18才から20代半ばまで過ごした町



なぜそんな町へ行ったのか

わかりません

18才

もしかしたら夢も希望もなにも持っていなかったのかもしれません


ただ

働きながら看護婦の免許を取るという

なんだか遠回りなこの作業を

自分ひとりの手でやってみたかったのかもしれません

いっちょ前の大人になりたくて



そんないきがってたあのころ



ある夏の日
当時付き合ってた気の優しい彼に
車でアパートの近くまで送ってもらい
すぐには別れづらく、今日見た映画の話をして
バイバイして車を降りようとドアに手をかけた
そのとき

車の周りを囲まれていました
労働者のおっさんたちに

「こんなとこでいちゃいちゃしてんじゃねーよ」

「ねーちゃん、降りてこいよ  俺たちとあそぼうぜ」


まるで昭和のドラマです

「エンジン音がうるさくて近所めーわくなんだよ」
「おい あんちゃん  降りてこいよ」

そういって車をどづきはじめました


彼は何かを察知し
すぐに車を出そうとしましたが
時すでに遅し


バン

ピストルの音ではありません

車のドアを閉める音
おっさんたちの前に立ちはだかるわたくし


あぁ なんて命知らず
無鉄砲顧みず

ここには書けないような言葉を発したかもしれません

なにせ昭和のドラマですから

でも時代は平成です

おっさんたちが一瞬ひるんだ隙に
わたくしはおっさんたちの間を通り抜け

アパートへ向かいます

おっさんたちが追いかけてきます


やばい


はじめて自分のしたことがとても危険なことに気付きました
ちゅーか彼は何をしてるんでしょうか

きっと車ん中で頭抱えていたと思います

で、エンジン音が遠ざかっていきました



ジーザス



このままアパートへ帰ったら住処がばれてしまう
まずい


とっさに

隣の家に入りました




小さいとき

変な人にあとをつけられたり 追いかけられたら
どこでもいいからその辺のおうちに「ただいまー」て入りなさい


そう教わりました


そうしました


十数年たってあのときの教えが役に立つとは



「ただいまー」



その家は「遠山さん」といって

大工の遠山さんのおうちです

奥からステテコ穿いた遠山の金さんが出てきます

「ただいまー」

「おう どうした」

「いまへんなおっさんたちが絡んできてん」

「なに?」


ってんで

金さんステテコにぞうり引っ掛けて
外へ飛び出していきます

「金さんちの娘さんやったんか  いやぁ知らんかったわ
 べっぴんさんやな」

ていったかどうかは定かではないですが

金さんの一にらみでおっさんたちは蜘蛛の子を散らすように
解散していきました

「おまえなー 余計なことすんな」

今度はわたしが金さんから目玉です


「まぁ スイカでも食ってけ」


遠山のおばちゃんが(金さんの奥さん)スイカを切ってお盆に乗せて持ってきてくれます

「これ使え」

とぶっきらぼうにステンレスのボウルを渡してきます

そのボウルにスイカの種がカン

カン



小さな音を立てて



蚊取り線香の灰が落ちます


網戸からぬるい風が入ってきます

軒の風鈴がちりんと鳴ります


ねこのマッチがあくびをしています



まだうろついとるかもしれん

と隣のアパートの玄関まで送ってくれた金さん
ステテコにぞうり引っ掛けた金さん





こんな町で


こんなふうに



わたしはひとつずつ


夢を拾い集めていったのかもしれません




  

Posted by 女神ちゃん at ◆2011年02月01日00:06看護婦シリーズ

Xさん 5 最終話

それから数ヶ月

真夏の暑い午後

いつものようにごみのたまったドブくさい路地を抜け
駅へ向かった

切符を買い、新聞紙が置かれたままのホームのベンチで一服

生ぬるい風が髪を揺らした


「あちぃ~」


ゴトンゴトン

ゆっくり電車が入ってきてホームで待っていた何人かがぱらぱらと乗り込む

平日の午後2時

こんな駅利用する人なんてほとんどいない


がらがらの電車の入り口付近に腰を下ろす


車窓からの見慣れた風景

休みだったのでちょっと町までショッピングでも行くか~
うちいても暑いだけやし

さして目的もないまま電車は揺れる

運ぶ




何気に電車の中を見渡すと










「柴田さん」


「たんぽぽさん!」




恋人同士の再会のように顔中笑顔でいっぱいにしてXさん登場である

うれしそうに駆け寄ってくると、隣に座った

うら若き乙女、かたやホームレス風

電車の中のまばらな乗客のまばらな視線がちぐはぐな恋人同士に注がれる
 


「お元気でしたか?」

それはこっちのせりふだ


「いや~たんぽぽさんにはお世話になりました。Tさんたちもお元気ですか?」


なんだかちょっとにおう
一応シャツは着てるけど、ヨレヨレ

「いや~毎日暑いですね」


なんだかこちらの問いを、気持ちを察するようにしゃべくり続ける
入院中こんなに自分から話す人じゃなかったのに


「どこかおでかけですか?」

やっとで聞いた問いに

「えぇ  知り合いのところまで」

そういってわずか5分の次の駅で柴田さんは降りていった

「病棟のみなさんによろしく」



電車の扉が閉まる

ホームに立つ 笑顔で電車を見送るXさんの足元はボーリング場の貸しシューズだった







終わり




  

Posted by 女神ちゃん at ◆2011年01月25日00:37看護婦シリーズ

Xさん 4

ホームレスに食事指導



なんて無謀な方針を立てたんだ 主治医の研修医


これからわたしたちの絶望的な食事指導が幕を開けるのだ

Xさんはさすが鍛えられてるだけあって体力もあり、肺炎なんかあっという間に治ってしまった
病院の食事もかなり彼を助けたであろう

入院時、彼は左右ちぐはぐの靴を履いてやってきた
靴以外の持ち物はなにもない
Xさんは明るく、他の入院患者さんともすぐに仲良くなり、たまには病棟あげてのカレー大会(なぜかこいういことをよくやった)でTさんたちとはしゃぐ姿も見られた


淡々と食事指導は進み、理解力は抜群でかなり頭のいい人なんやなという印象を受けた
ただ、その知識と学んだことを活かせる環境にない ということ

食生活の改善ったって
ホームレスなんだもの
自分の名前もわからないんだもの

もう絶望的じゃないか



どうにもこうにも意味を見出せず
むなしさでいっぱいの食事指導は最終項を迎えた


「柴田さん、退院したらどうするんですか?」

入院中に福祉が入って生活保護の認定もおり、住まいも見つかった

けど・・・ほんとにこの人そこに住むんかな
ほんとにこれでよかったのかな
という気がしていた


「とりあえず、引越しです。落ち着いたら仕事でも探してみます」
なんとも無難な答えが返ってきて後ろ髪を引かれた


退院の日、福祉の担当者と深々と頭を下げて柴田Xさんは帰っていった


たくさんの押し付けを背負って

どこかのおうちへ帰っていった

  

Posted by 女神ちゃん at ◆2011年01月25日00:04看護婦シリーズ

Xさん 3

「柴田さんなにやったんですか?」
婦長に詰め寄る

「なにもやってないわよ~。ただ、住所不定だし、事件の可能性もあるし救急隊が一応通報しただけよ」



なーんだ

柴田さん

Xさん


なんだXでもなんでもないやんか
ただの糖尿か~

ちょっと残念


肺炎落ち着いたらさっさと退院しちゃうんか



コンコン
「失礼します。検温です」

302号室へゆるゆるの突入である

「お世話になります」

日焼けだか垢だかわからないけど黒い顔したXさんはベット上で正座をしてわたしを迎え入れた

「どうですか?ご飯は食べれました?」
「おいしくいただきました」

完食である
でも、こんないっぺんに食べてお腹大丈夫??


まだ少し熱はあるが、点滴、食事、休養ですぐ回復するであろう


問題は

この人の名前だ


思い出せないらしい

いつからか



その日は福祉の担当者も来て、今後について病院側も含め話し合いがあった




この病院は工業地帯に近く、労働者の町であり、同時に喘息や公害の町でもあった
いつも煙が空を覆っていて、病院の横を流れる大きな川はヘドロで澱んでいて、いつもへんなにおいがしていた
町はごちゃごちゃと狭い道が縦横無尽に走っており、駅前は風俗店がひしめいていた
この駅を使ってお出かけするのだが、夕方、夜になるとまっすぐ駅まで誰からも声をかけられず行けた覚えがない
「おねえさん、どこいくの」「いいバイトありますよ」「あそぼうよー」「ヒュ~!」


今思うと、なんて危なっかしい町に住んでたんだろう
よく親はこんなとこに住むと言った10代の娘を許したな と


話がそれた

そんな町なんで、いろいろと問題ややっかいごともひしめいていて、そんなやっかいごとを一手に引き受けているような病院だった



Xさんのようなひとはこう言っちゃ悪いが、引き受けてくれる病院がない
救急隊もわかっていて真っ先にここに連絡してきたんだろう


今目の前に正座しているXさん
46才と書いてあるが、もうちょっといってそう
頭事情は寂しげだが、お風呂入ってきれいにしたらそれはそれでおとこまえになりそうである


「わたしはいつ退院できるでしょうか。仲間も心配していることと思うので早く帰りたいんですが」

「そうですよね。いきなり入院しちゃったんですから心配されてますよね。福祉の人が知らせてくれると思うんですけど、また聞いておきますね」


「お願いします」

このXさん、肺炎が落ち着くのと平行して糖尿病の食事指導が始まるのである
  

Posted by 女神ちゃん at ◆2011年01月24日22:45看護婦シリーズ

X さん 2

婦長へ伝えたところ、婦長が同席するのであなたは準夜の仕事をするようにとのこと

個室301号の呼吸器つけた患者さんから廻る
血圧を測り、検温、SpO2(酸素飽和度)、モニターチェック
尿量チェック
痰の吸引


特にかわったことなく淡々と仕事はすすむ

体位交換を終え、衣類のしわを整えて



耳は隣の302号室に釘付け


ガターン!
「ほんとになにも覚えていないっていうんだな?!」



などと荒っぽい声は聞こえてこない
ここは病院であって、取調べ室ではない

壁一枚、コソコソ話声は聞こえるが内容までは聞き取れない


301号の患者さん、呼吸器つけて眠ってる

壁に耳をくってけてみた



やっぱり聞こえない

ちっ


視線を感じ振り向いたら呼吸器の患者さんが起きてこっちを見てた


わけない



仕方ないのであきらめて大部屋を廻ることにした

305号の女性部屋はお上品で居心地がいい
窓際のベットのSさんは元教師
こちらが言うまでもなくご自分できちんと検温していてくださる
同室の患者さんのお膳を下げたりカーテンを引いたり
いろいろ助けてくださる
この部屋は和む

軽い冗談を言いながら問題なくさらっと終了


306号室 ここはちょっと重い
喘息の患者さんが2名
喘息は夕方や朝方の気圧の変化に発作を起こすパターンが多く
今まさに始まろうとしている
「かんごふさん 吸入してくる」
と言ってゼーゼーいいながらご自分で酸素ボンベを押してナースステーションへ向かう


307号室 気が重い
男性部屋
手前の二人はおとなし目の老人
問題は窓側の二人
「わー!たんぽぽちゃんきたきた~。待ってたよー。今夜トランプやろうぜ」


何事か わたしは仕事に来ているのである

「はい、検温します。Tさん、体温計はさんでください。夕飯は?今日は何回吸入しました?」

「なーなー、たんぽぽちゃん今日の夕飯のおかず味付け薄いよ~。しょうゆちょうだいよ。」


「病院食は患者さん個別に合わせて考えてあります。入院中に食事コントロールするのも患者さんの努めです。それとわたしはたんぽぽちゃんではありません。」


この患者さんは小柄でちょっとぽっちゃり、ベースに糖尿があり、喘息も持っているという珍しいパターンである
糖尿はマイペース、のんき、おおざっぱ
喘息は神経質
分けちゃ悪いがこんな感じ
なのでこの人は相反する気質を持ち合わせている稀な人、ということになる
発作が起きると寝てられなく座って肩を使って呼吸する  
ゼーゼーハーハー
Tさんは喘息発作で入退院を繰り返していて、今回は重積発作で入院してきたのだが、入院時ストレッチャー上で座り両手をついてゼーゼーヒューヒュー肩で息をして、3人がかりで搬送されてきた

その様子がお神輿みたいで
「お神輿わっしょい」
と密かに名づけたのだ


「なーなー、たんぽぽちゃん 今夜の映画ターミネーターだよ。見ていいでしょ?チョコ食べる?」

「Tさん、血糖注意!チョコは私が食べるけど、9時消灯なんで映画はだめです」

さっさとチョコは取り上げて口に入れた

「なんだよーケチー」
「テレビ見せてよー」

そういってTさんとわめくお向かいさんはボーリングの玉を足に落っことして骨折したなんとも間抜けな青年である

「トランプは貸しますが、一緒にはやりません」



何日か前の夜勤んときは一緒にやったけど
負けたのでもうやりません


他の病室も一回りして落ち着いてるな、よしよし と
再び302号へ向かう


ちょうど刑事さんと婦長が出てきたところだった





  

Posted by 女神ちゃん at ◆2011年01月24日22:34看護婦シリーズ

Xさん

お仕事のお話 第2弾
よそのとある総合病院に勤めていた私は、呼吸器病棟に勤務していた
40床あり呼吸器疾患の方に限らず、下の階のICUがいっぱいだとHCU設備のある私の病棟へ患者さんが移されては来るし、ベッドの調整で整形の患者さんや糖尿の患者さんなどさまざまな疾患の方で常に満床(詳しくは→わたくしのお仕事記事Ⅰ、→わたくしのお仕事記事Ⅱ

この日わたしは夕方4時半から深夜までの、準夜勤
「おはよーございまぁす」
おやつの入ったコンビニの袋をシュワシュワさせてご出勤
ナースステーションの奥のちょっとした休憩室に荷物を置いてまず換気扇の下で一服(この頃は喫煙者でありました)
そこへ4才上で看護婦としては先輩、けど同期入社のkちゃんが
「おもしろいのが入ってきたで」
とニヤニヤ鼻の穴をふくらましながらやってきた
「楽しみにしとけよ~」
kちゃんはスキップしながら点滴に行ってしまった

「申し送り始めますがいいですか?」
チームリーダーに声をかけられ、タバコを消す
ここからわたしの一日ははじまる

「305号〇〇さん、退院決まりました。〇日10時エント(退院)予定です。退院指導、エント処方済みです。
   〇〇さん、昨夜から熱発、本日胸部X-Pの結果、抗生剤変更になってます。本日16時KT38.3℃です。」
など入院患者さんの病態を細かに申し送る(送られる)

「最後、302号に新患さん入りました。柴田Xさん、男性46才。」

「Xさん???」

思わず口をはさんでしまった
ブログ上実名を上げられないのでなく、申し送りのナースはほんとうに
「Xさん」と言ったのである

「そう、Xさん。柴田Xさん。」

なんでも、病院近くの国道1号線沿いの「柴田町」の高架下のダンボールハウスにお住まいで、今朝仲間が訪ねたら意識を失って倒れていたとのこと  お仲間は慌てて近くの家に駆け込んで救急車にて搬送、入院となったらしい
ご近所(お仲間)さんもご本人の名前は知らないらしく、当の本人は身分を証明するもの何一つ持たずで、意識不明
なので「柴田Xさん」
こちら側が勝手に命名したのである

このXさん、検査の結果、肺炎、糖尿病を患ってるらしく、極度の低栄養もみられた
点滴の成果あって午後には意識回復したものの、今ひとつはっきりしない
名前を尋ねても「わからない」と言うらしい
ただ年は46才 というらしい
意識が戻ったから「ありがとうございました」と言って帰ろうとしたらしい
でもとても温和な表情で、いい人そうな感じらしい

らしい

なにがなんだかわけがわからんらしい

「それ、やばないっすか?」
と言うと、
「受け入れちゃったからね~。でも病状落ち着いたら退院じゃない?本人帰りたがってるし。一応区の福祉担当者には連絡入ってるから」


Xさん

どんなひと?
国1のガード下で拾われちゃった(ごめんちゃい)Xさん

申し送りも終わってさぁて巡回、Xさんはややこしそうやから最後にしよっと と思って立ち上がると
「すみません」
とナースステーションの入り口にスーツの男性が

「こちらに柴田Xさん入院してらっしゃいますか?」

Xさん、もうすでにXさん知名度上がり中

「ご面会ですか?」
たいていの面会人はそのまま病室へ行かれるのだが、なんかこの人  違う

「こういうものです」

黒い手帳をペロン
ほんとにこうやって出すんやぁ 警察手帳

「刑事さんですか?」
制服ではなかったので聞いてみた

「南署の〇〇です。柴田さんにご面会を」



柴田さん  なにしたの??


のっけから波乱の予感の準夜スタートであった




  

Posted by 女神ちゃん at ◆2011年01月24日21:26看護婦シリーズ

普通のお仕事 2

ゆっくりと、ご家族が病室に足を踏み入れる。

顔には白い布巾をかけてある。


そっとお辞儀をし、病室をあとにした。
チラッと見ると娘さんが顔の布巾をめくっているのが見えた。


山本さんは大工さんだった。この温和な性格で若い人にもずいぶん慕われてきただろう。
鉋や金槌を持った逞しかったであろう腕は痩せて細くなり、今は手首にガーターベルトである。

「絆創膏、なんて言おうかな。ていうかすぐ止血するからあとでそうっとはがそう」

なんて思いながら片付けをし、主治医の死亡診断書を待っていると電話がなる。
「救急受付です。ベッド空いてませんかねぇ」

今、たった今亡くなったけど、けどまだ病室はうまっている。満床だ。
「もうどこもいっぱいなんですよ~。今一床空きましたよね?」
なんて無情なやつらなんだ。ハイエナか。

主治医が憐れみを浮かべた表情でこちらを見ている。
「わかりました。もうしばらく待ってください。折り返し連絡します。」

はっきり言って一段落ついたので、ちょっと座ってお茶でも飲みたい。
世は無情だ。

主治医からご家族に朝お迎えが来るまでの間、霊安室へ移っていただくことを説明してもらい、山本さんをストレッチャーへ移動する。
ご家族はいろいろとやることがあるので、明日朝また来ます、と言って帰ってしまわれた。

さて、6階の霊安室へ。
当然主治医が一緒にストレッチャーを押してくれるだろう。
甘かった。
今夜の当直医はハズレ医だったのである。

「ごめん。(救急)応援呼ばれたから、ひとりで行けるよね?」

いつの世も無情である。

エレベーターの6Fを押す。

「山本さん」

チラッと四角布をめくると3枚の絆創膏。

「山本さん、怒ってないよね?」

3枚の絆創膏は3枚のお札に見えた。
明日朝めくろう、と思い直し四角布をそっとかぶせる。

「チン」

6階へのドアが開く。
この病院は6階が手術室と霊安室、解剖室になっていて、当然こんな真夜中は人っ子一人いない。
「山本さん、ベッド動きますよ~。」
なんていいながら、非常灯の緑色の灯りしかない廊下をストレッチャーを押す。
いやに静か 空気も止まっている。
急に心臓がバクバクし始め、しっこちびりそうになる。
さっきまで生きていた山本さんにしがみつく。
だってさっきまで生きていたから。3枚のお札貼った山本さん。
しかしなんかちょっと冷たい山本さん。冷たくなってるよ山本さん!
もうそこからは猛ダッシュ。
霊安室のドアをバンッと開け、電気を付けストレッチャーを運び入れる。
枕元に線香を燻らし、チーン!

「山本さん!明日また!!」

エレベーターまですっ飛んでいく。転がるように。
さっき降りたとき、「開延長」のボタン押しといて良かった。
自分の頭の回転の良さに感謝しながら、3階のボタンを連打する。

やっとでエレベーターのドアが閉まり、ゆっくりと下へ下りる。

エレベーターの中の鏡に写った自分を見てまた飛び上がる。

「チン」
3階へのドアが開く。
するとそこにまた何かが(誰かが)うずくまっていたのである。

半田の上田さんであった。





完  

Posted by 女神ちゃん at ◆2010年11月18日22:57看護婦シリーズ

普通のお仕事

何をもって普通のお仕事というのか。
それはわからんが。
先日ある映画をテレビで見ていて、その中で癌で余命宣告された夫に対して熟年の妻が言ったセリフ。

「わたし長年看護婦をやってきたわ。人の死には何度も何度も直面してきた。何人も何人も看取ってきた。普通の女がしないような経験をたくさんしてきたの。怖いものなんてないわ」

う~ん。
怖いものなんてない か。

確かに怖いもの・・・ないかもしれん。
でもその反面ずーっと昔から怖いものもある。

私も看護婦の仕事を長年してきた。
人の死を何十も見取らせていただいた。


けど怖いもんは怖い。

昨日久々に友人とお茶しながらそんな話をしていた。

若かりし頃(今でも若い。今より若い頃、という意味)よその病院で勤めていたとき、私の勤務する病棟は
呼吸器病棟で、HCU(High Care Unit:高度治療室。ICUよりもやや重篤度の低い患者を受け入れる。)もあり肺癌末期の方や呼吸機能不全の方などもみえ、慌ただしい反面、積極的治療から苦痛を取り除く治療へ切り替えた方などで常に満床状態の病棟だった。
ほんとにいろんな方がみえ、寝たきりになっても食欲のとまらない牧師さん、某〇〇教の幹部の方、元芸者さん、ヤクザ(かなり治安の怪しい街でした。寮の裏は事務所だったので火炎瓶が事務所に投げ込まれたときは非難しました。新聞社のヘリが空を飛んでました)、交通事故にあった名前のないホームレス・・・。

患者さん一人ひとりにその人の生い立ちがあり、親兄弟がいて、家族があり友人や同僚もいる。
病気になって入院治療するまでその人その人の社会での役割がある。
あたりまえだけど、退院して社会復帰したらまた仕事なり、家庭なりに戻るのである。

つまり患者さん一人ひとりにドラマが存在するのだ。
ここが看護婦を辞められない理由のひとつであるわけで、もーなんかちょっと重いなー、なんか違う仕事しよっかなー なんてレジうちや販売員などもやってみたが、どういうわけか気がつくと看護婦に舞い戻っている。
「看護師」という呼び方にどうもいまだ不慣れなわたし。「看護婦さ~ん」て呼ばれたほうがなんとなくソフトで、こっちのほうが耳にやさしい と思っている。
話がそれた。
わたしの愛すべき患者さんの話はまた機会があれば追々。(もう時効だからいいよね?)
そう、テーマは「死」。
重ーいのである。

私の勤務してた病棟は夜間は二人勤務。40床を二つのチームに分け、ひとりずつ担当していた。

0*30 準夜勤の看護婦から深夜勤の看護婦へ申し送り(患者の容態を事細かに次の看護婦に申し送ること)が始まり、だいたい30分くらいで終了。残務を済ませた準夜勤の看護婦が帰ると患者の寝静まった病棟はいっそう静けさを増す。容態の悪い(深夜帯でステりそうな人。ステルとは、ドイツ語で「死亡」を意味する)患者さんから見廻る。
あー あかんかも 
と思うと、すぐ当直医をチェック。
なんじゃ、ヤツか・・・。当たりもあればハズレもある。
あまりにハズレだと、急変時は主治医をコールしちゃう。だってハズレなんだもの。

「看護婦さん」と声が掛かる。
容態の悪い山本さん(仮名)のご家族だ。
痰を引く。意識はない。呼吸器だけで呼吸している。
静かな病室、静まり返った病棟に呼吸器のシュポーシュポーという機械音が響く。
血圧が下がってきている。
疲れきったご家族をあとに、そっと病室のドアを閉める。

で、振り向くとそこに何かが(誰かが)うずくまっている。
悲鳴を上げそうになる。
「どうしたの?」
入退院を繰り返している半田市の上田さん(仮名)だ。年々認知症が悪化している。
「焼き物市へ行ってくる」
「何買うの?    茶碗?   そうか~、やけど今夜中なんよー。バスもないしとりあえず今日は泊まっていったら」
どうやってベッドから降りたの??などと思いながら車椅子を取りに走る。
上田さんを寝かせ、
「ほんなら今日はよう寝てなー おやすみなさい」
と布団をかけ大部屋をあとにする。

ナースステーションへ戻りモニターチェックをする。
山本さんの脈拍ががくんと落ちている。
病室へ行き、血圧モニターの手動を押しながら、脈をとるが触れない。
血圧モニターは60/48

ご家族に容態を説明し、ドクターコール。
本来見取りは主治医なのだが、夜勤帯なので当直医コール。しかし、今日はハズレの日。
同時に主治医にもコール。

ナースステーション、電話横のモニターはすでに、波波形で心拍数を表す表示はHR28。
山本さんの病室へ走ると、ご家族が立ち尽くし、奥さんはハンカチで顔を覆っている。
主治医と当直医が同時に現れ(なんで?)当直医が戻っていく。

モニターのピーという電子音。
主治医が脈をとり、瞳孔散大を確認する。
「〇月〇日、2時06分。昇天されました。」
主治医と二人頭を下げ、静かにモニター、呼吸器の電源を切る。
これを切り忘れると、あとからご家族を慌てさせる(心臓が停止した後も、筋肉の震えによってモニターの波形が揺れることがある。これをご家族が息を吹き返した、と勘違いする。自分たちも違う意味で慌てる。)ことになる。
しばらくご家族を病室に残し、エンゼルセット(死後処置)の準備をする。
余談だが、仏教徒でも、イスラム教徒でも、死後処置は「エンゼルセット」を使って行われるのである。
不本意であろうが、そう呼ぶのだからしかたあるまい。
病院が入っている互助会によって「エンゼルセット」の内容も少しずつ異なる。両手を組んで胸の前で止める紐もただのさらしだったり、ガーターベルトのようにレースがついてたりいろいろで、顔にかける白い布巾(ていうの?)もただの四角布だったり化繊で光沢があり縁がこれまたレースだったり。あとは鼻や耳、はたまた内頬に詰める綿や、箸などがセットされている。
それにお湯をくんで、もうひとりの看護婦に応援を頼みいざ病室へ。
ノックしてドアを開けると、ご家族がしんみりと、ほんとにしんみりと涙をぬぐっている。山本さんは高齢であり、病歴も長く入退院を繰り返しておられたので、ご家族としてもある程度の覚悟はできていたのではないだろうか。
「今からお体をきれいにさせていただきます。」
そう言うと、娘さんが
「この着物を着せてあげてください」
とやはりあらかじめこのときを覚悟されていたようにまっさらの着物(寝巻き)を取り出す。

こういうときに、とんでもないものを着せて、と用意してくるご家族もいる。剣道の師範だった人に胴衣(どうやって着せるの?)、教祖様にはえらいキラキラのお着物(どうやって??)など、焦ってしまう。

山本さんは細身で身長も高く、温和な方で死顔もとても穏やかだった。
「おつかれさまでした」
熱いタオルをぎゅっとしぼり、足から順に体を拭いていく。
「おひげを剃りますね」
そう言ってもう一人の看護婦が泡を付けた顎に剃刀をあてる。
私は体を拭く。
「山本さん、しんどかったよね。がんばったよね。」
髭剃りが終わり、着物を着替えるため横向きに、そして仰向けに。
「わ!血!!」
山本さんの顔が血だらけだ。剃刀負けである。人は亡くなっても剃刀負けするのである。ていうか、血だらけだ。ご家族に見られたらまずい。
慌てて止血しようとするが、これがなかなか止まらない。
しかたなく絆創膏を貼ってみた。
3枚の絆創膏。3枚のお札ならぬ、3枚の絆創膏。
許してくれるよね?山本さん。

「終わりました。どうぞ」
ご家族を病室にお通しする。



つづく 








  

Posted by 女神ちゃん at ◆2010年11月18日21:56看護婦シリーズ